内容説明
現実と現実ならざるもの
この本の仕組みは「あとがき」に作家自身が書いている内容につきる。
フィクションとしての小説に1人の女性の主人公がいてその女性はフリーランスのエディターであり、彼女が作ろうとしている、受け取ろうとしている新たなフィクションこそ現実のこの『タイプライターの追憶』という小説である、というような構造だ。
現実とは何か。小説とは何か。その関係は?
エディターの彼女が経験する激しい感情の波とその後の凪の中に
その秘密を解く鍵が隠されているのかもしれない。
※作家の敬愛する写真家・佐藤秀明氏撮影の写真を収録
【著者】
片岡義男
1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。http://kataokayoshio.com/
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
258
あぁぁ、なんて懐かしい。彼の作品の主人公は、仕事をこなし、紅茶を飲み、細身のパンツが似合って、4つも5つも部屋のあるアパートに住み、週末にはバイクに乗ったりホテルのプールに行ったりするのだ(そして案外かんたんに、男たちと寝ちゃったりする・笑)。独身時代、どれだけ彼女たちにあこがれたことか。あれから数十年経つが、公衆電話を使う以外は、いまだに色あせない彼女たちに再会。これを読んだ直後、親に買ってもらったんだよなぁ、オリベッティのタイプライター。2017/08/22
Mishima
33
僕は君をおぼえている。その時の風をおぼえている。君がまとっていた風はいまも変わらない。石畳の階段を僕の前を行く君の後ろ姿は幻なんだと呟いてみる。階段を踏み締めるたびに僕は君に近づき君は離れてゆく。いつか、君は泣きながら歩いていたっけね。真夏だった。汗なのかと思った。それで、目が合ったら思いっきり微笑んだんだ。それから僕の十代は君でいっぱいになった。口笛でも吹いてみようか。やめとこう。君が振り向いたらどうしていいかわからないから。2020/03/19
りんご
6
片岡作品にしては珍しく女性が号泣します。一時ですが、、、写真とのコラボ2022/08/12
たくみ
2
この時代の片岡義男は結構、文体にキレがある。そして文庫本としては破格の凝った意匠。インクとか、写真とか。そういう意味でも時代を感じる。2016/03/14
ラバ
1
とても良い気分になる本だった。前半の写真には、日本における経済的豊かさを表象するものとしての欧米の風景のイメージが、転写を繰り返すことで空虚になってしまう以前の感じがあるように思う。後半の物語は、簡潔に登場人物の行動を書くことによって強いムードが出ていると思う。こんな風に暮らせれば良いのにと思うが、この簡潔さは現実に無いから、フィクションの領分なのだろう。この本自体と物語との関係が円環するような仕掛けは、現実とフィクションの接点を生み出していて、とても良い。2021/12/08