内容説明
唇よりも、手が先。
残暑が徐々に後退し、夜の冷気が肌に心地良い9月半ば。
1台のオートバイが西から東へ、
もう1台のオートバイが東から西へ向かっている。
だからやがて、その2台は合流するはずだ。
2人が会う時、男が手を差し延べる。
1年前の秋の名月の日、初めての出会いの時はどしゃぶりで
その時に手を差し出したのは女のほうだった。
今では体を重ねあう関係にある2人も
路上ではライダーとして、唇よりも手が先だ。
そしてこのうえなく冴えた月が2人を照らし出す。
【著者】
片岡義男:1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。