発表!!紀伊國屋じんぶん大賞2020――読者と選ぶ人文書ベスト30
「紀伊國屋じんぶん大賞」は、おかげさまで第10回目を迎え、今回も読者の皆さまから数多くの投票をいただきました。誠にありがとうございます。投票には紀伊國屋書店社内の選考委員、社員有志も参加いたしました。投票結果を厳正に集計し、ここに「2019年の人文書ベスト30」を発表いたします。
※2018年12月〜2019年11月(店頭発売日基準)に刊行された人文書を対象とし、2019年11月1日(金)〜 12月10日(火)の期間にアンケートを募りました。
※当企画における「人文書」とは、哲学・思想/心理/宗教/歴史/社会/教育学/批評・評論に該当する書籍(文庫・新書含む)としております。
※推薦コメントの執筆者名は、一般応募の方は「さん」で統一させていただき、選考委員は[選]、紀伊國屋書店一般スタッフは所属部署を併記しています。
紀伊國屋じんぶん大賞2020フェアは、2020年2月1日(土)より開催中です。
詳細は各店へお問い合わせください。
第1位 大賞
『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』東畑開人

©千葉雄登
東畑開人さん 特別寄稿
「人間」という巨大な世界に向き合う
紀伊國屋じんぶん大賞の受賞、格別な思いでいます。その理由を以下に書きます。
僕の専門分野は臨床心理学です。この学問はここ20年で着実に専門化を遂げてきました。公認心理師という国家資格ができて、心の専門家になるための訓練制度やカリキュラムが整備されました。僕らは膨大な専門用語を習得し、専門的な技法を身につけるようになりました。
そのことは基本的には良きことです。心という傷つきやすいものを扱ううえで、きちんとしたトレーニングがなされて、プロフェッショナルとしての倫理を内面化することは不可欠なことだからです。
だけど、そのことによって臨床心理学は少しずつ「人文」から離れていったように思います。
かつて臨床心理学の書物は「人文」の世界にたしかに存在していました。しかし、それは徐々に純粋な専門家向けの本か、セルフヘルプに役立つユーザー向けの本かに引き裂かれていきました。その両者のあわいである「人文」の色彩が薄くなっていったように思うのです。
専門化するとは、つまりそういうことです。
しかし、僕らの仕事は本質的には人文的なものです。なぜなら、「心」というものの性質上、僕らの仕事は「人間が生きていくこと」に関わらざるをえないからです。それはまさに〝Humanities=人文〟の領域です。
実際、『居るのはつらいよ』で取り上げたのは、僕らの業界では多くの人が知っている基礎的な概念や理論ですが、それらの知を学んだとき、僕はただ専門家として知識を習得しているという以上に、人間についてのなにがしかに触れているという実感をもっていました。そして多くの同業者と同様に、それこそがこの学問の魅力だと感じていました。 今回の受賞が格別であったのは、そのような人文知としての臨床心理学の蓄積を、多くの人と共有できた証のように思ったからです。
僕らは小さな場所で仕事をしています。小さな施設で、小さな部屋で、小さな声で。だけど、そこには「人間」という巨大な世界が広がっています。そういうことを語ることができる臨床家であれるよう、これからもこの仕事に向き合っていきたいと思っています。
とうはた・かいと●1983年生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。沖縄の精神科クリニックでの勤務を経て、2014年より十文字学園女子大学へ。准教授。2017年に白金高輪カウンセリングルームを開業。臨床心理学が専門で、関心は精神分析・医療人類学。主な著書に、『美と深層心理学』京都大学学術出版会、『野の医者は笑う』誠信書房、『日本のありふれた心理療法』誠信書房がある。本書『居るのはつらいよ』で、第19回大佛次郎論壇賞受賞。
ひょんなことから沖縄の精神科デイケア施設で働くことになった心理士。そこではただ「居ること」が求められた! なにもしないことはこんなにも難しい。施設のスタッフやメンバーたちとの触れ合いの中でケアとセラピーの関係に思いをはせる。普段われわれが無意識的に感じ、うまく距離をとっている他人との関係性。日常から少しはみ出た人たちと出会い、自分の日常でのあり方にも疑問をもつ。ほのぼの、笑い、そして感動もありのエンタメ冒険小説(?)心理学関係者、デイケア・サービスに興味がある方はもちろん、なんだか最近せかせかして疲れているなと感じるあなたへ贈る癒しの本です。
ケアとセラピーの違いを明確にし、病む人にとって何が治癒的な関わりとなるのかが物語のように読みやすく書かれていて、臨床家必読の一冊だと思う。専門書的な内容が面白く読めるので心理療法や精神分析を身近に感じられ、臨床家でない知り合いにも薦められる。
その思想的な潜在性は予感しながらも、「ケア」という営みが一体どういうことなのか、実はよくわかっていなかった。その実際は「ただ、いる、だけ」。実在を肯定し保護するところの「ケア」は、現代社会の大きな課題であるフェミニズムをはじめ、グレタ・トゥンベリさんや伊藤詩織さんらが強いられている"一人での闘い"などを考える時、重要な鍵概念だと思う。
「ただ居るだけ」それがどれだけ負担となるのか、本書を読み進めていくと実感をともなって想像することができる。ケアとセラピーとはそれぞれどのようなものかを徹底的に考え抜く。血を吐きながら「居る」ことで見えてくる。体験を物語ることで著者が救われることはあっただろうか。笑ったり頭を抱え込んだりしながら読むなかで、そのような思いになった。
デイケア施設で働く心理士の著者が、「ただ座っているだけ」の居心地の悪さと、そこに隠された意義を、一人の人間として捉えた傑作。人間の価値が「生産性」で測られる時代になった。私たちはみな何処かの弱者。"誰かの自由を犠牲にして、自分たちだけが自由になることはできない"(高橋源一郎)
【玉本千幸・新宿本店】
ケアとセラピーの違いを明確にし、病む人にとって何が治癒的な関わりとなるのかが物語のように読みやすく書かれていて、臨床家必読の一冊だと思う。専門書的な内容が面白く読めるので心理療法や精神分析を身近に感じられ、臨床家でない知り合いにも薦められる。
【佐藤ちひろさん】
その思想的な潜在性は予感しながらも、「ケア」という営みが一体どういうことなのか、実はよくわかっていなかった。その実際は「ただ、いる、だけ」。実在を肯定し保護するところの「ケア」は、現代社会の大きな課題であるフェミニズムをはじめ、グレタ・トゥンベリさんや伊藤詩織さんらが強いられている"一人での闘い"などを考える時、重要な鍵概念だと思う。
【[選]小山大樹】
「ただ居るだけ」それがどれだけ負担となるのか、本書を読み進めていくと実感をともなって想像することができる。ケアとセラピーとはそれぞれどのようなものかを徹底的に考え抜く。血を吐きながら「居る」ことで見えてくる。体験を物語ることで著者が救われることはあっただろうか。笑ったり頭を抱え込んだりしながら読むなかで、そのような思いになった。
【橋本亮二さん】
デイケア施設で働く心理士の著者が、「ただ座っているだけ」の居心地の悪さと、そこに隠された意義を、一人の人間として捉えた傑作。人間の価値が「生産性」で測られる時代になった。私たちはみな何処かの弱者。"誰かの自由を犠牲にして、自分たちだけが自由になることはできない"(高橋源一郎)
【[選]池田匡隆】
第2位『「差別はいけない」とみんないうけれど。』綿野恵太
「みんなが差別を批判できる時代」......世の中に存在する差別や差別をめぐる出来事について、いくつかの関連書をもとに論考された一冊。感情的にならずあくまでも淡々と書かれているのが印象的だ。「差別」と聞くと、なぜか遠い場所の言葉のような気がする。それはきっと「差別」について何も知らないからだと思う。だからこの本を読む。「知らなかった」でやり過ごしてしまわないように。
「差別をやめろ」と声を荒げる人たちの、その目的はわかるけど、なんか言い方に引っかかる。正しいことばのはずなのに、その口調の強さに乗り切れない。そんなあなたが抱えてるかたちにならないもやもやは、きっと大事な何かを含んでる。優しい世界を求めるあなたに、寄り添ってくれる批評のことばがここにある。
「いま目の前にある分断にどう向き合えばいい?」という問いについて考えるための優れた道具となる〝使える〟一冊。
現代の差別の構図について、これ以上ないほどクリアに解明してみせた一冊。本書の最も大きな功績は、左右上下の思想の別なく読者に届いたことだろうと思う。本書を下敷きにすることによって、初めてわたしたちはさまざまな議論が始められるのだ。
【木村麻美・新宿本店】
「差別をやめろ」と声を荒げる人たちの、その目的はわかるけど、なんか言い方に引っかかる。正しいことばのはずなのに、その口調の強さに乗り切れない。そんなあなたが抱えてるかたちにならないもやもやは、きっと大事な何かを含んでる。優しい世界を求めるあなたに、寄り添ってくれる批評のことばがここにある。
【[選]中島宏樹】
「いま目の前にある分断にどう向き合えばいい?」という問いについて考えるための優れた道具となる〝使える〟一冊。
【広平稲泉さん】
現代の差別の構図について、これ以上ないほどクリアに解明してみせた一冊。本書の最も大きな功績は、左右上下の思想の別なく読者に届いたことだろうと思う。本書を下敷きにすることによって、初めてわたしたちはさまざまな議論が始められるのだ。
【住本麻子さん】
第3位『在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活』荒木優太
研究という最高の楽しみを大学に閉じ込めておくのはもったいない。野武士のような研究者たちによる、人生を好き勝手やるための材料集。読者を"あさって"の行動へと駆り立てる編者の文章にも注目。ど迫力の山本哲士さんインタビューはコピーして持ち歩いています。
所属のない人間が研究成果を広く世に発表する、一昔前は困難であったことがネットの発達により現在は多くの人に開かれている。しかしオープンなはずの現代社会でも在野の研究者困難は多いのが現実。本書はその実例と可能性を提示する。この本を読んで「こんな自由なやり方もあるのか......」と著者達に続く在野研究者たちに期待したい。
かつてない刺激的な奇書といっていいだろう。大学の外の学問なんて、かつてはトンデモと相場が決まっていた。しかし、大学が危機にある今、本来の意味でのアカデミックな生き方がここにある。進路に迷う学生にこそ読んでほしい。職業生活を送ることと、知的生活を送ることは相成り立つのだ。
研究するとはどういうことだろうか。研究というものは大学という枠のなかだけのものなのだろうか。大学という組織に属さずに、いろいろな職業につきながら「研究」を続けている研究者十数人の、研究の実践と方法が書かれた本書。研究が続けたくて修士、博士に進みたいけど、大学の教員になれるかも分からないし、とお悩みの大学生・大学院生にぜひ読んでいただきたい一冊。明日はないけど明後日はきっとあるという不思議な明るさにはげまされるはずだ。
【塩原淳一朗さん】
所属のない人間が研究成果を広く世に発表する、一昔前は困難であったことがネットの発達により現在は多くの人に開かれている。しかしオープンなはずの現代社会でも在野の研究者困難は多いのが現実。本書はその実例と可能性を提示する。この本を読んで「こんな自由なやり方もあるのか......」と著者達に続く在野研究者たちに期待したい。
【[選]生武正基】
かつてない刺激的な奇書といっていいだろう。大学の外の学問なんて、かつてはトンデモと相場が決まっていた。しかし、大学が危機にある今、本来の意味でのアカデミックな生き方がここにある。進路に迷う学生にこそ読んでほしい。職業生活を送ることと、知的生活を送ることは相成り立つのだ。
【もとこさん】
研究するとはどういうことだろうか。研究というものは大学という枠のなかだけのものなのだろうか。大学という組織に属さずに、いろいろな職業につきながら「研究」を続けている研究者十数人の、研究の実践と方法が書かれた本書。研究が続けたくて修士、博士に進みたいけど、大学の教員になれるかも分からないし、とお悩みの大学生・大学院生にぜひ読んでいただきたい一冊。明日はないけど明後日はきっとあるという不思議な明るさにはげまされるはずだ。
【中山修一さん】
第4位『お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』北村紗衣
フェミニズムの観点から、『シンデレラ』や『アナと雪の女王』など、多くの人たちに愛されている作品にも遠慮なく嚙みつく問題作。これまで純粋に楽しんでいた美しい物語から、無意識のうちに押しつけられていた価値観に気づいたとき、ぞっとしました。
フェミニズム批評の視点によって、作品鑑賞はもっと面白くなるということを鮮やかに、軽やかに実践した痛快な一冊。そのことを多くの読者に伝えるために選ばれたであろう、「不真面目」さという戦略は切実なものと思われる。大ヒット映画や著名作品など身近な題材から、一歩踏み込んだ問題に自然に導いてくれる。
【藤井茜さん】
フェミニズム批評の視点によって、作品鑑賞はもっと面白くなるということを鮮やかに、軽やかに実践した痛快な一冊。そのことを多くの読者に伝えるために選ばれたであろう、「不真面目」さという戦略は切実なものと思われる。大ヒット映画や著名作品など身近な題材から、一歩踏み込んだ問題に自然に導いてくれる。
【[選]藤本浩介】
第5位『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』小川さやか
香港在住のタンザニア人たちの破天荒な社会を参与観察した記録は読み物として純粋に面白い。また、彼らの〝いまここ〟を生きる姿勢、「誰も信頼できないし、誰でも状況によって信頼できる」という弾力性の高い考え方は非常に示唆に富む。
香港に集まるアフリカ系交易人によってゆるやかに築かれた経済システムやセーフティネットは、「完全」を求め、「不確実性」をできるだけ排除しようとする既存のシステムと比べると、一見不完全で不確実性に満ちあふれたものに感じられる。しかしながら、「チョンキンマンションのボス」であるカラマをはじめとする、彼らのいきいきとした魅力あふれる描写には、どこか息苦しさを感じざるをえない私たちの世界を乗り越えていくための、なにか大きなヒントのようなものが、隠されているようにおもいます。
【S・Oさん】
香港に集まるアフリカ系交易人によってゆるやかに築かれた経済システムやセーフティネットは、「完全」を求め、「不確実性」をできるだけ排除しようとする既存のシステムと比べると、一見不完全で不確実性に満ちあふれたものに感じられる。しかしながら、「チョンキンマンションのボス」であるカラマをはじめとする、彼らのいきいきとした魅力あふれる描写には、どこか息苦しさを感じざるをえない私たちの世界を乗り越えていくための、なにか大きなヒントのようなものが、隠されているようにおもいます。
【[選]林下沙代】
第6位『新記号論 脳とメディアが出会うとき』石田英敬・東浩紀
第7位『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ
第8位『記憶する体』伊藤亜紗
きちんとメモをとれる全盲の女性、下半身不随なのに痛みを感じる男性。11人の障害者の声を集めるとそこには今までみたことのなかった体と記憶の不思議な世界がまっていた! 世界って、人って本当に無限大だと感じること間違いなし。読後は自分の体との関係についてしみじみと考えたくなります。
ボタンを留めるのに苦戦する幼い子を見守りながら、普段の生活で何気なく行っている行動は、経験を重ね記憶した体によるものなのだと思い至る。本書は、そんな個々の体に刻まれた記憶・時間性、そして体と心の不可思議な関係という迷宮に読者を誘う。私の体の私らしさは、どのように育まれてきたのか立ち返る契機を得た。
【玉本千幸・新宿本店】
ボタンを留めるのに苦戦する幼い子を見守りながら、普段の生活で何気なく行っている行動は、経験を重ね記憶した体によるものなのだと思い至る。本書は、そんな個々の体に刻まれた記憶・時間性、そして体と心の不可思議な関係という迷宮に読者を誘う。私の体の私らしさは、どのように育まれてきたのか立ち返る契機を得た。
【[選]津畑優子】
第9位『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』山下泰平
「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本
山下泰平 /柏書房
2019/05発売
ISBN : 9784760150076
価格:¥1,980(本体¥1,800)
タイトル通りの本である。本当に。なんだこれはとおもったがタイトル通りの本なのだ。近代文学について学校の授業でさらりと触れた程度の私にとっても、明治の文学はその当時のよほどの天才が残したものであり、さらに通俗的な読み物が溢れていたことは想像ができる。しかしその庶民に楽しまれた読み物がどんな様子であったか、想像もしたことが無かった。題材は舞姫だけにとどまらず、近代日本の小説の成り立ちからたどることができる。なんにでも馬丁が出て活躍しまくる。読後に暗い映画を見たが馬丁が出てくれば万事解決と思いながら鑑賞するくらいに馬丁が強い。本書によって現代と当時の価値観の違いに驚嘆するもよし、はたまた引用された小説から明治の空気を吸い込むもよし、とにもかくにも作者の探究心に驚かれたし。その知の力はまさしく今年の人文書の代表と言っていいほど私達の手元を照らしてくれている。
【古賀那由美さん】
忘れ去られた「明治娯楽物語」を発掘することで、日本近代文学を新しい視点から洗い直したユニークな文学史研究書。「明治娯楽物語」は荒唐無稽でユーモアたっぷり。「こんな小説が存在したのか!」という驚きに加え、著者の機知に富んだ語り口は抱腹絶倒。まさか文学史研究で大笑いするとは思わなかった。【川本直さん】
第10位『急に具合が悪くなる』宮野真生子・磯野真穂
ポップな表紙と帯に誘われて、軽い気持ちで手に取って、そして読み進めていくうちに「急に具合が悪くなる」。読了後に動けなくなる本などそうそうあるものではない。生と死を巡る哲学者と人類学者の文字通り全身全霊の往復書簡を堪能して欲しい。
壮絶である。なぜなら、見送られる者と見送る者とのいのちをかけた対話(往復書簡)である。この場では、生きること、死ぬことは、もはや「観念」ではない。「いま」「ここ」に生きると踏み出すものに贈られた、勇気の物語だろう。哲学者のご冥福を祈りながら。
【[選]松野享一】
壮絶である。なぜなら、見送られる者と見送る者とのいのちをかけた対話(往復書簡)である。この場では、生きること、死ぬことは、もはや「観念」ではない。「いま」「ここ」に生きると踏み出すものに贈られた、勇気の物語だろう。哲学者のご冥福を祈りながら。
【池田昌恵さん】
第11位『天然知能』郡司ペギオ幸夫
第12位『数学の贈り物』森田真生
自分がいま生きている世界は、こんなにも豊かで美しいのだということを、「言葉」で見せてくれた本。小学校から大学まで、自分は16年間学校教育を受けたけれど、そこでは知り得なかった、本当の意味での「学問」の喜びを、この本に教えてもらいました。
【MHさん】
第13位『レンマ学』中沢新一
第14位『吉田健一ふたたび』川本直・樫原辰郎(編)
戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである。吉田健一の言葉は、今こそ知られてほしい。若手中心の企画で、新しい本が出たことが本当に嬉しいです。酒や食べ物のエッセイから読み始め、詩の翻訳、評論、小説と辿ってきたのですが、その幅広い活動を網羅してくれているすてきな本です。
【佐々野悟さん】
第15位『文化人類学の思考法』松村圭一郎・中川理・石井美保(編)
第16位『分解の哲学 腐敗と発酵をめぐる思考』藤原辰史
現代に生きるわたしたちは、古くなったものを捨て、新しいものを次々と購入する。そのため、「腐敗」や「分解」といった再生工程に目を向けることが少ない。「分解」を中心に据えた本書は、わたしたちの凝り固まった一方的で直線的な事物の据え方を柔らかくし、循環可能な円環的思考を提示してくれる。
【山田萌果・札幌本店】
第17位『かたちは思考する 芸術制作の分析』平倉圭
絵画や彫刻だけでなく、舞台やダンス、インスタレーションまでを含む芸術制作全般に関して、その内実をひたすら「かたち」そのものが持つ思考のあり方から読み解こうとする、精密で徹底的な批評集。抽象的な概念と具体的な「かたち」の間の、決してどちらか一方に還元されない、緊張感に満ちたせめぎ合いが全編にわたって持続する。
【[選]藤本浩介】
第18位『ネット右派の歴史社会学 アンダーグラウンド平成史1990‐2000年代』伊藤昌亮
平成の日本が育ててしまった闇を正しく葬るために必読の労作。「右傾化」や「ネトウヨ」は他人事になりがちだが、彼ら自身の論理と多様なクラスタの相関図を内在的に描き出す本書のアプローチで、実は自分も近いところにいたのではないかと震撼させられた。
【[選]野間健司】
第19位『アリストテレス 生物学の創造』アルマン・マリー・ルロワ
第20位『時間は存在しない』カルロ・ロヴェッリ
第21位『西周と「哲学」の誕生』石井雅巳
西周という、多くの日本人が名前を耳にしたことはあるが、その業績の本当の価値はまだまだよく知られていない偉人に光を当てなおす一冊。西は「哲学」をはじめ、現代でも日常的に使われている数多くの熟語の考案者だが、その背景に隠された、江戸と明治、ふたつの時代を生きた西ならではの知的ドラマを丹念に追った1・2章は圧巻。平易な語り口は読みやすく、コンパクトな小著だが、通説をくつがえすだけのパワーを秘めている。
【柳原一徳さん】
第22位『テーマパーク化する地球』東浩紀
第23位『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』木澤佐登志
小著ながら、内容的にも「木澤佐登志」という書き手を知ることができたという意味でも、今年一番の衝撃作。著者の知識量と、整序されつつもドライヴ感のある書きぶりに圧倒され、紹介される思想やサブカルチャーは身近ではなかったが、確かに「現実」の一側面を描き出していると、実感をもって納得させられた。
【trrさん】
第24位『創造と狂気の歴史 プラトンからドゥルーズまで』松本卓也
第25位『食べたくなる本』三浦哲哉
第26位『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』小熊英二
第27位『海を撃つ 福島・広島・ベラルーシにて』安東量子
第28位『精神病理学私記』ハリー・スタック・サリヴァン
移民であり同性愛者であった著者が、自分自身の人生を匿名の症例として書き上げた精神医学書。アメリカで著者は非常に大きな影響力があったが、本書はその内容の過激なことから生前は出版されなかった。LGBTムーブメントがやっと市民権を得つつある今日の日本で、この本が翻訳出版されたことの意義はとても大きいと思う。
【街場の精神科医さん】
第29位『働く人のための感情資本論 パワハラ・メンタルヘルス・ライフハックの社会学』山田陽子
ストレートに感情や考えをぶつけることを回避し、共感を示しつつ毒気を抜いたそれをそっと差し出すのが是とされる現代社会。ハラスメントや自殺はメディアで扱われるだけのものではなく、「普通に」働く私たちの日常と地続きの問題だ。働く人々の感情や生と死を考察する上で欠かすことのできない重要な書。
【[選]津畑優子】
第30位『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』大木毅
紀伊國屋じんぶん大賞2020選外〜思い入れたっぷりなこの一冊〜
価格表記は全て税抜です。
『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』
ヤニス・バルファキス/ダイヤモンド社/1,500円
誰もが経済と無関係では生きられない。経済とは社会のしくみであり、世界のなりたちそのものだから。経済を学ぶことは、世界のなかで自分はどう生きるかを考えることであり、自分にとっての本当の幸せとは何かを探ることにつながる。
『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』
ユヴァル・ノア・ハラリ/河出書房新社/2,400円
著者は情報あふれる現代の社会において「明確さは力だ」というがまさに至言。人類が直面する諸問題の冷静な分析を読むことで大きな視点で自分(達)の立ち位置を確認できた。前二作も世界的ベストセラーとなったが、むしろ本作こそが多くの社会で広く読まれるべきだろう。
『聖なるズー』
濱野ちひろ/集英社/1,600円
非常に真面目な「愛」の本だ。固定概念がガラガラと崩れ、多くのことを考えさせられた。人文書を読む醍醐味が、この本には詰まっている。
『「私」は脳ではない 21世紀のための精神の哲学』
マルクス・ガブリエル/講談社/2,100円
脳・神経のメカニズムとその役割解明に熱い視線が注がれる今日。神経科学の隆盛に伴い肥大化するマトリックス的世界観より、われわれはいかに脱出することができるのか。自己決定する人間〈精神〉の確保を急務とした気鋭の哲学者による神経からの奴隷解放宣言。
『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』
望月優大/講談社/840円
現代の日本社会で移民問題の現在地を、日常から1つ上の視点で考えるための必読書。
『日蓮主義とはなんだったのか』
大谷栄一/講談社/3,700円
600頁超の分厚さにたじろいではいけない。手に取ればそんなことは気にならないほど頁をめくる手は止まらない。性急は厳に慎むべきだが、「いま」この一冊を読む意義を考えずにはいられない。
『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』
イ・ミンギョン/タバブックス/1,700円
家父長制のなかで抑圧される女性たちに護身術となる言葉を授けるため、強者の言動に潜む矛盾と身勝手さを暴きながら、容易くかき消される弱者の経験を丁寧にすくい上げた、著者渾身の一冊。
『マツタケ 不確定な時代を生きる術』
アナ・チン/みすず書房/4,500円
この表紙のインパクトとシュールさ、そして本書が書店の棚の中で(良い意味で)浮いていることに心を打たれた。見た目に反し、中は本格的な人類学書。視点が多様かつアクターが多すぎてこの場でまとめることは難しいが、その研究成果は正鵠を射ているように思える。加えて、幕間のマツタケ談義や行間の植物・菌類イラストのおかげで、本書の持つ雰囲気はずいぶんと優しく柔らかい。価格以上のボリュームと内容、私が保証します。
『〈性〉なる家族』
信田さよ子/春秋社/1,700円
「家族」という社会の基本単位の中で隠され、繰り返される性暴力。暴力が暴力が生む不幸な連鎖に抗うために、まずは現実を直視してみること。ムゴいやキモいで済ませて蓋をするのではなく、まずは本書に触れ考え始めることから。
『ひれふせ、女たち ミソジニーの論理』
ケイト・マン/慶応義塾大学出版会/3,200円
個人的な偏見ではなく、家父長制が根底にある社会におけるミソジニー。その文脈の中に居続ける限り、男女平等の名の下に女性の社会進出が進むことになろうとも、「社会的地位を奪うこと」に対する制裁を科されるだろうという著者の指摘に愕然とした。私たちはこの社会でミソジニーにいかにして立ち向かうべきなのだろう。
『ヒト、犬に会う 言葉と論理の始原へ』
島泰三/講談社/1,750円
歴史をこえ、大陸をこえ、そして種をこえて営まれるヒトと犬の共同作業。ヒトの文明やコミュニケーション形成にいつも寄り添ってきた犬に想像力を膨らませたときに見えてくる、この不思議な隣人の魅力と真理。
『近現代日本の民間精神療法 不可視な(オカルト)エネルギーの諸相』
栗田英彦・塚田穂高・吉永進一 編/国書刊行会/4,000円
医学と民間療法、科学と宗教が未分化の時代、人々を虜にした心身技法の諸相。東洋の神秘と見せて、実は西洋の翻訳、逆輸入を経た、グローバルかつ近代的な現象。その妖しくも人間を超え出ようとする人間的過ぎる営みの、研究対象としての魅力に負けそうになる本。
『翻訳 訳すことのストラテジー』
マシュー・レイノルズ/白水社/2,300円
「翻訳は、私たちのあいだのちがいを見る(あるいは尊重する)のを助けるのだ」と著者はいう。専門用語から平易な言葉への言い換えは? マイナー言語へ翻訳する意義は? 機械翻訳や動画の自動字幕がポピュラーになった昨今だからこそ、「翻訳」の見えない役割を意識する重要性を訴えたい。
『分解者たち 見沼田んぼのほとりを生きる』
猪瀬浩平/生活書院/2,300円
筆者自身の家族の歴史と生まれ育った地域の歴史を丁寧に解きほぐし、編まれた労作。多様な存在との向き合いかたや、それぞれが生きていく場所をつくっていくということについて。あらためて自分のまわりをぐるっと見渡しながら、深く考えさせられる一冊でした。
『ナウシカ考 風の谷の黙示録』
赤坂憲雄/岩波書店/2,200円
年末にさえ出ていなければ確実に上位に入っていたであろうタイトル。私以外の担当者もほぼ読んでいました! 以下私も含む彼らのコメントを紹介します。「宮崎駿監督の思考がこの本を読んでわかった気がした。」「ナウシカをここまで読み込んだ解説書がかつてあっただろうか。」「この本を読んでナウシカをもう一度読み直した。涙が止まらなかった。」「本当のナウシカに会えた気がした。」一行たりとも飛ばし読みしたくない本です。とにかく読んでみてください。
『ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評』
柿木伸之/岩波書店/860円
ようやく刊行された、手に取りやすいベンヤミンの入門書。2つの大戦の時代を生きたベンヤミンの生涯を辿りつつ、代表的な著作のエッセンスを抽出してその思想の見取り図を示してくれる。ベンヤミンが気になっている方はぜひこの一冊から読んでもらいたい。
『ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景』
福嶋亮大/PLANETS/2,800円
サブカルチャー評論のレベルを一気に引き上げる労作。戦前国策映画、戦後ドキュメンタリー映画、近代建築など多彩な分野を博捜し、戦後突然現れた「怪獣」という表象の背景を探り出す手際は興奮間違いなし。
『開かれた対話と未来 今この瞬間に他者を思いやる』
ヤーコ・セイックラ+トム・アーンキル/医学書院/2,700円
近年急速に注目を集めつつあるオープンダイアローグ(精神病などに対する「開かれた対話」を中心とした治療的介入の手法/システム/思想)の創始者ふたりによる決定版というべきガイド。その実践的・思想的広がりとともに、今後読み継がれていくだろう未来の定番書。
『エイリアン 科学者たちが語る地球外生命』
ジム・アル=カリーリ 編/紀伊國屋書店/2,200円
「宇宙には何千億も恒星があるのに、地球にだけ知的生命体がいるのはおかしい」というフェルミのパラドクスから始まる、宇宙物理学、進化生物学、心理学などさまざまな分野の第一人者の考察。「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」。人類の永遠の問いの答えは、「われわれ」でないものを探すことで得られるのかもしれない。
『女たちのテロル』
ブレイディみかこ/岩波書店/1,800円
鮮やかな表紙に目を奪われ、思わず手に取り。本文を読んで、金子文子、エミリー・デイヴィソン、マーガレット・スキニダー、3人の女性の艶やかな人生に心が躍り、読む手が止まらなくなり。読み終わってもまた、再読してしまいたい、そんな本です。
『迷うことについて』
レベッカ・ソルニット/左右社/2,400円
『説教したがる男たち』や『ウォークス』などで読者を魅了してきた作家・批評家が、自伝的な回想を織り交ぜながら、「迷うこと」を軸に読者を思索へ誘う芳醇なエッセイ。ブックデザインも翻訳も見事な一冊。
『選挙制を疑う』
ダーヴィッド・ヴァン・レイブルック/法政大学出版局/3,400円
行き詰まる民主主義に特効薬の処方箋はないが、諦めてはいけない。民主主義は多数決ではなく選挙ですらないとする抽選制は、古代アテネの制度を甦らせるだけの思考実験ではなく、現在も世界各地で試行されているソーシャルデザインの取り組みだ。
価格表記は全て税抜です。
『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』
ヤニス・バルファキス/ダイヤモンド社/1,500円
誰もが経済と無関係では生きられない。経済とは社会のしくみであり、世界のなりたちそのものだから。経済を学ぶことは、世界のなかで自分はどう生きるかを考えることであり、自分にとっての本当の幸せとは何かを探ることにつながる。
【相澤哲洋・総務部】
『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』
ユヴァル・ノア・ハラリ/河出書房新社/2,400円
著者は情報あふれる現代の社会において「明確さは力だ」というがまさに至言。人類が直面する諸問題の冷静な分析を読むことで大きな視点で自分(達)の立ち位置を確認できた。前二作も世界的ベストセラーとなったが、むしろ本作こそが多くの社会で広く読まれるべきだろう。
【生武正基・新宿本店】
『聖なるズー』
濱野ちひろ/集英社/1,600円
非常に真面目な「愛」の本だ。固定概念がガラガラと崩れ、多くのことを考えさせられた。人文書を読む醍醐味が、この本には詰まっている。
【池田匡隆・広島店】
『「私」は脳ではない 21世紀のための精神の哲学』
マルクス・ガブリエル/講談社/2,100円
脳・神経のメカニズムとその役割解明に熱い視線が注がれる今日。神経科学の隆盛に伴い肥大化するマトリックス的世界観より、われわれはいかに脱出することができるのか。自己決定する人間〈精神〉の確保を急務とした気鋭の哲学者による神経からの奴隷解放宣言。
【井村直道・水戸営業所】
『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』
望月優大/講談社/840円
現代の日本社会で移民問題の現在地を、日常から1つ上の視点で考えるための必読書。
【植松由布子・京都営業部】
『日蓮主義とはなんだったのか』
大谷栄一/講談社/3,700円
600頁超の分厚さにたじろいではいけない。手に取ればそんなことは気にならないほど頁をめくる手は止まらない。性急は厳に慎むべきだが、「いま」この一冊を読む意義を考えずにはいられない。
【大籔宏一・ゆめタウン徳島店】
『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』
イ・ミンギョン/タバブックス/1,700円
家父長制のなかで抑圧される女性たちに護身術となる言葉を授けるため、強者の言動に潜む矛盾と身勝手さを暴きながら、容易くかき消される弱者の経験を丁寧にすくい上げた、著者渾身の一冊。
【小林翔太・中部営業部】
『マツタケ 不確定な時代を生きる術』
アナ・チン/みすず書房/4,500円
この表紙のインパクトとシュールさ、そして本書が書店の棚の中で(良い意味で)浮いていることに心を打たれた。見た目に反し、中は本格的な人類学書。視点が多様かつアクターが多すぎてこの場でまとめることは難しいが、その研究成果は正鵠を射ているように思える。加えて、幕間のマツタケ談義や行間の植物・菌類イラストのおかげで、本書の持つ雰囲気はずいぶんと優しく柔らかい。価格以上のボリュームと内容、私が保証します。
【小山大樹・札幌本店】
『〈性〉なる家族』
信田さよ子/春秋社/1,700円
「家族」という社会の基本単位の中で隠され、繰り返される性暴力。暴力が暴力が生む不幸な連鎖に抗うために、まずは現実を直視してみること。ムゴいやキモいで済ませて蓋をするのではなく、まずは本書に触れ考え始めることから。
【髙部知史・京都営業部】
『ひれふせ、女たち ミソジニーの論理』
ケイト・マン/慶応義塾大学出版会/3,200円
個人的な偏見ではなく、家父長制が根底にある社会におけるミソジニー。その文脈の中に居続ける限り、男女平等の名の下に女性の社会進出が進むことになろうとも、「社会的地位を奪うこと」に対する制裁を科されるだろうという著者の指摘に愕然とした。私たちはこの社会でミソジニーにいかにして立ち向かうべきなのだろう。
【津畑優子・書籍・データベース営業部】
『ヒト、犬に会う 言葉と論理の始原へ』
島泰三/講談社/1,750円
歴史をこえ、大陸をこえ、そして種をこえて営まれるヒトと犬の共同作業。ヒトの文明やコミュニケーション形成にいつも寄り添ってきた犬に想像力を膨らませたときに見えてくる、この不思議な隣人の魅力と真理。
【中島宏樹・横浜店】
『近現代日本の民間精神療法 不可視な(オカルト)エネルギーの諸相』
栗田英彦・塚田穂高・吉永進一 編/国書刊行会/4,000円
医学と民間療法、科学と宗教が未分化の時代、人々を虜にした心身技法の諸相。東洋の神秘と見せて、実は西洋の翻訳、逆輸入を経た、グローバルかつ近代的な現象。その妖しくも人間を超え出ようとする人間的過ぎる営みの、研究対象としての魅力に負けそうになる本。
【野間健司・書籍・データベース営業部】
『翻訳 訳すことのストラテジー』
マシュー・レイノルズ/白水社/2,300円
「翻訳は、私たちのあいだのちがいを見る(あるいは尊重する)のを助けるのだ」と著者はいう。専門用語から平易な言葉への言い換えは? マイナー言語へ翻訳する意義は? 機械翻訳や動画の自動字幕がポピュラーになった昨今だからこそ、「翻訳」の見えない役割を意識する重要性を訴えたい。
【花田葉月・雑誌営業部】
『分解者たち 見沼田んぼのほとりを生きる』
猪瀬浩平/生活書院/2,300円
筆者自身の家族の歴史と生まれ育った地域の歴史を丁寧に解きほぐし、編まれた労作。多様な存在との向き合いかたや、それぞれが生きていく場所をつくっていくということについて。あらためて自分のまわりをぐるっと見渡しながら、深く考えさせられる一冊でした。
【林下沙代・札幌本店】
『ナウシカ考 風の谷の黙示録』
赤坂憲雄/岩波書店/2,200円
年末にさえ出ていなければ確実に上位に入っていたであろうタイトル。私以外の担当者もほぼ読んでいました! 以下私も含む彼らのコメントを紹介します。「宮崎駿監督の思考がこの本を読んでわかった気がした。」「ナウシカをここまで読み込んだ解説書がかつてあっただろうか。」「この本を読んでナウシカをもう一度読み直した。涙が止まらなかった。」「本当のナウシカに会えた気がした。」一行たりとも飛ばし読みしたくない本です。とにかく読んでみてください。
【東二町順也・新宿本店】
『ヴァルター・ベンヤミン 闇を歩く批評』
柿木伸之/岩波書店/860円
ようやく刊行された、手に取りやすいベンヤミンの入門書。2つの大戦の時代を生きたベンヤミンの生涯を辿りつつ、代表的な著作のエッセンスを抽出してその思想の見取り図を示してくれる。ベンヤミンが気になっている方はぜひこの一冊から読んでもらいたい。
【藤本浩介・台湾エリア】
『ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景』
福嶋亮大/PLANETS/2,800円
サブカルチャー評論のレベルを一気に引き上げる労作。戦前国策映画、戦後ドキュメンタリー映画、近代建築など多彩な分野を博捜し、戦後突然現れた「怪獣」という表象の背景を探り出す手際は興奮間違いなし。
【星正和・新宿本店】
『開かれた対話と未来 今この瞬間に他者を思いやる』
ヤーコ・セイックラ+トム・アーンキル/医学書院/2,700円
近年急速に注目を集めつつあるオープンダイアローグ(精神病などに対する「開かれた対話」を中心とした治療的介入の手法/システム/思想)の創始者ふたりによる決定版というべきガイド。その実践的・思想的広がりとともに、今後読み継がれていくだろう未来の定番書。
【松野享一・書籍・データベース営業部】
『エイリアン 科学者たちが語る地球外生命』
ジム・アル=カリーリ 編/紀伊國屋書店/2,200円
「宇宙には何千億も恒星があるのに、地球にだけ知的生命体がいるのはおかしい」というフェルミのパラドクスから始まる、宇宙物理学、進化生物学、心理学などさまざまな分野の第一人者の考察。「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」。人類の永遠の問いの答えは、「われわれ」でないものを探すことで得られるのかもしれない。
【森永達三・本町店】
『女たちのテロル』
ブレイディみかこ/岩波書店/1,800円
鮮やかな表紙に目を奪われ、思わず手に取り。本文を読んで、金子文子、エミリー・デイヴィソン、マーガレット・スキニダー、3人の女性の艶やかな人生に心が躍り、読む手が止まらなくなり。読み終わってもまた、再読してしまいたい、そんな本です。
【池田飛鳥・事務局】
『迷うことについて』
レベッカ・ソルニット/左右社/2,400円
『説教したがる男たち』や『ウォークス』などで読者を魅了してきた作家・批評家が、自伝的な回想を織り交ぜながら、「迷うこと」を軸に読者を思索へ誘う芳醇なエッセイ。ブックデザインも翻訳も見事な一冊。
【和泉仁士・事務局】
『選挙制を疑う』
ダーヴィッド・ヴァン・レイブルック/法政大学出版局/3,400円
行き詰まる民主主義に特効薬の処方箋はないが、諦めてはいけない。民主主義は多数決ではなく選挙ですらないとする抽選制は、古代アテネの制度を甦らせるだけの思考実験ではなく、現在も世界各地で試行されているソーシャルデザインの取り組みだ。
【四井志郎・事務局】