出版社内容情報
「ただ居るだけ」vs.「それでいいのか」
京大出の心理学ハカセは悪戦苦闘の職探しの末、ようやく沖縄の精神科デイケア施設に職を得た。「セラピーをするんだ!」と勇躍飛び込んだそこは、あらゆる価値が反転するふしぎの国だった――。ケアとセラピーの価値について究極まで考え抜かれた本書は、同時に、人生の一時期を共に生きたメンバーさんやスタッフたちとの熱き友情物語でもあります。一言でいえば、涙あり笑いあり出血(!)ありの、大感動スペクタクル学術書!
*「ケアをひらく」は株式会社医学書院の登録商標です。
目次
プロローグ それでいいのか?
第1章 ケアとセラピー ウサギ穴に落っこちる
第2章 「いる」と「する」 とりあえず座っといてくれ
第3章 心と体 「こらだ」に触る
第4章 専門家と素人 博士の異常な送迎
幕間口上 時間についての覚書
第5章 円と線 暇と退屈未満のデイケア
第6章 シロクマとクジラ 恋に弱い男
第7章 治療者と患者 金曜日は内輪ネタで笑う
第8章 人と構造 二人の辞め方
幕間口上、ふたたび ケアとセラピーについての覚書
最終章 アジールとアサイラム 居るのはつらいよ
文献一覧
あとがき
1 ~ 3件/全3件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネギっ子gen
168
愛好する『シリーズ・ケアをひらく』の一書。大佛次郎論壇賞。当然の受賞というより、よくぞ、という思いがある。なぜなら、ケアは見えにくいから。作者自身も<「ただ、いる、だけ」。その価値を僕はうまく説明できない>と書いている。その小さくて見えづらいケアを、精神科デイケアを舞台に軽妙な筆致で描き受賞したのだから、賞選考委員の見識に嬉しくなった次第。さらに著者は書く。<「ただ、いる、だけ」は、風景として描かれ、味わわれるべきものだ。それは市場の内側でしか生き延びられないけど、でも本質は外側にあるものだ>と。同感だ。2020/01/24
ふう
105
副題は「ケアとセラピーについての覚書」。ガラスドアの外から眺めて少しわかった気になっていたけど、ドアを開けて見てみると二つは似ているようでも違うものでした。違ってはいるけどどちらも繊細で大切なものだということが、軽めの表現で分かりやすく書かれています。気づかされたり納得させられる説明もたくさん。ただ、明るくユーモラスに描かれているけど、やはりそこにあるものはとても重く、書ききれないこともあるようです。とくに別れや退職に至るまでの場面では、作者の葛藤や痛みが伝わってきて胸がつまりました。2020/07/15
ケイトKATE
99
福祉において、最も重要なことはただ「居る」ことである。「居る」ことで、人は居場所と生きがいを見出すことができる。しかし、一方で「居る」ことは、当事者と介助者を追い詰め傷つくのも事実である。本書は、沖縄の精神科デイケアで臨床心理士として働いていた著者が、体験に基づいて「居る」を巡って考察し、福祉の現場を分かりやすくユーモアを交えて伝えている。福祉において、生産性を求める政治家や役人、経営者はもちろんのこと、大なり小なり福祉に関わる人は是非読んでみてほしい。2021/04/30
アキ
97
臨床心理士が精神疾患患者のデイケアで必要だったのは「ただ居るだけ」。沖縄での個性的なメンバーたちとの4年間は振り返るとかけがえのないものであった。毎日なにも変わらないことを続けることが目標のデイケアは円環的時間で、ケアすることでケアされる、ケアされることでケアする投影の世界。ケアの方がセラピーより古いが、経済収益的にセラピーにはお金がつきやすくケアにはお金がつきにくい。精神分析家ウィニコットによる依存労働もそうである。ケアの日常のエピソードにポストモダン哲学が挿入されて、まとまりのなさがいい加減であった。2021/01/25
藤月はな(灯れ松明の火)
87
院を卒業し、在野での臨床心理学を極める意欲に燃えていた作者。就職に掲げる3つの信条に叶う仕事場に就職した作者が、そこで見出したのは、蔑ろにされがちな「いる」事の重要性だった。最初のケアに対し、上から目線な作者にカチンとしましたが、ユーモラスな文章の為、不快さもなく、スイスイ、読みました。しかし、書かれている事は結構、ハード。何もしなくても「自分はここにいても良いんだ」と思える場が少なくなっている事。ケアする人のケアが疎かになる事に因る離職率の高さ。その根底にあるものは私達の中にもあるからこそ、無視できない2019/06/13