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内容説明
滑稽、悲哀、苦悩、歓喜、陶酔……。奇蹟としか言いようのない深い洞察力によって人間のあらゆる感情を舞台の上に展開させたシェイクスピアの全劇作を生きた日本語に移した名翻訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まふ
96
「シーザー」「クレオパトラ」と並ぶローマ劇の最後の物語。武骨かつ一本気で民衆の暗愚を嘲弄する貴族主義の主人公コリオレーナスが世の中の動きについてゆけないままに自滅する。腕っぷしと戦略はめっぽう強いが単細胞で気が短いこの男の末路が平和裏に終わるはずがない。今日の世界の政治家たちにも多くの同類がいるような気がして興味深い。母親のヴォラムニアの説得に負けるこの男も単純だが、この母親の意見が世の中の「常識」を伝えているような気がした。この作品は政治劇的側面が強くこれまでもいくつかの派生的作品が生まれたらしい。2023/10/29
ロビン
17
再読のはずだが全然覚えていない。ローマ共和政時代を舞台に、不敗の将軍だが、民衆に膝を屈することを知らないコリオレーナスの最期を描いた史劇。なかなか複雑微妙なテーマの作品で、考えさせられるものがあった。スキピオ・アフリカヌスも強力な将軍だったが戦後政治的に失脚しているし、ポンペイウスもカエサルに敗れるまでは不敗だったが、人間心理に疎くエジプトで謀殺されてしまった。優秀な将軍であることと政治ができることは別であり、偽善や追従を嫌ったコリオレーナスに政治は無理であった。性格が不可避的に引き起こす悲劇、見事だ。2022/03/26
ろばこ
7
2年ほど前にナショナルシアターライブで見てからずっと読みたかった一冊。読み進めていくと映像がよみがえってきて、すごく面白かった。高潔で傲慢で母親に弱いまっすぐすぎる軍人。ものすごく生きづらそうだ。2016/07/16
roughfractus02
6
作者は本書で、古代から讃えられる英雄の悲劇を民衆側から捉えた人間の劇に変える。民衆側から見た英雄は、傑出した武人でも高慢な人物と映る。戦功を重ね、護民官に立候補した主人公は、他の護民官の挑発に乗って民衆を罵倒し、貴族制を擁護して民主制ローマから追放される。敵ヴォルサイ側についた主人公がローマの領土を陥落すると、武人としての彼が人間に戻る契機のように母が説得に訪れ、ヴォルサイの了解なくローマとの和平が結ばれる。こうして、単なる裏切り者となった英雄はヴォルサイ側に殺され、人間の欲望に満ちた民衆政治に埋もれる。2019/11/28
有沢翔治@文芸同人誌配布中
6
別に選挙があったから読んだわけではありません。古代ローマを舞台にした政治劇。扇動に乗せられた思うと、すぐに態度を変えるローマ市民たちは印象的。それを「性こりもない阿呆どもだ、自分の子供を殺した男に。喉も避けよばかりに万歳をとなえていやがる」という台詞がそのことを端的に物語っています。 2016/07/11