内容説明
滑稽、悲哀、苦悩、歓喜、陶酔……。奇蹟としか言いようのない深い洞察力によって人間のあらゆる感情を舞台の上に展開させたシェイクスピアの全劇作を生きた日本語に移した名翻訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まふ
98
プルタルコス英雄伝を底本とした有名な恋愛史劇かつ政治劇。3頭政治の一角を担う名将アントニーがエジプト=プトレマイオス王朝の女王クレオパトラの魅力に負けて恋におち、シーザーに敗れるまでのドラマを描いている。予定筋書き的に劇は進み、その分シェイクスピアらしい深みのある人間劇的やりとりは少なく、ワクワク感、ドキドキ感は今ひとつであった。とはいえ、中年期の男盛りのアントニーと成熟した女性クレオパトラの熱烈な恋とその破局は相応に時代を超えて訴えるものがあった。2023/08/03
ロビン
17
再読だがこの訳は初。ローマの武将アントニウスとエジプトの女王クレオパトラの2人を主人公とした史劇。自分の立場や度量を顧みず、愛と野心に目が眩んで夢を見た愚かな男女の物語と切り捨てても仕舞えるのかもしれないが、『ローマ人の物語』にて塩野七生氏はアントニウスについて「愛に生きて死ぬのも、男の一つの生き方である」と優しい評を下している。主人公二人の、またアントニウスの部下イノバーバスらの心の揺れがよく描かれていると思うし、庶民の卑猥な冗談から星を散りばめたように美しい比喩まで、みごとな台詞にもうならされる。2022/03/22
allite510@Lamb & Wool
12
ざっくり400年前に書かれた、さらに2,000年前の物語。書かれたロンドンから舞台のローマまでは1844km(青森長崎間1771km)、ローマ・カイロ間は2363km(択捉沖ノ鳥島間2787km、スマホ超便利)。クレオパトラは、嘘や政治による多面性が描かれているものの若干平板な印象もあるが、そこは戯曲なので演じ方次第かもしれない。惑い、道を誤るクレオパトラと中年アントニーはみっともなくも魅力的。「ああ、太陽よ、おまえのめぐる天球を焼きつくすがいい!」2024/04/10
ゆーかり
11
『ジュリアス・シーザー』に続く三頭政治時代の約10年間の話。アントニー43歳、クレオパトラ29歳、オクテーヴィアス・シーザー23歳。『ジュリアス・シーザー』で名演説を披露したあのアントニーも、この作品ではあまり良いところが見当たらず。なぜ優勢な戦いの真っ最中に退散したクレオパトラを追って敗走したの?アイアラスの死因は何?それにしてもこの時代の使者って八つ当たりばかりされて気の毒。2015/06/28
ふくろう
8
「お前は知っていたはずだ、おまえがどこまでおれを征服したかということを」。シェイクスピアの英雄は誰もかれもが美点と欠点を持っていて、「あの人格好いい!素敵!抱いて!」とすぐには言えないところがいい。クレオパトラに心酔する英雄アントニーは、戦士としての戦ぶりよりも、愛する女とともにいることを望んだ。『コリオレーナス』のような、愛なき殺戮マシーンのきれいな裏返し。どちらも結局は殺されてしまうのだけれど、ならば英雄とは何なのか?皆が褒め称えやすい人。誰もが望む人格者。またの名を幻覚、あるいは服従者。なんと哀れ。2010/08/03