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内容説明
滑稽、悲哀、苦悩、歓喜、陶酔……。奇蹟としか言いようのない深い洞察力によって人間のあらゆる感情を舞台の上に展開させたシェイクスピアの全劇作を生きた日本語に移した名翻訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
366
この作品は喜劇に分類されているようだが、悲喜劇あるいはロマンス劇とするものもある。実際、内容的にはハッピーエンド終わるとはいえ、喜劇的な要素は薄い。劇の枠組み自体はソポクレスの『オイディプス王』を踏まえており、デルフォイの神託や生後間もないパーディタの荒野への追放など、あからさまなほどにそのことを提示している。また、嫉妬が重要なモチーフとなっている点では『オセロ』と通底するが、本作ではそれは劇展開のための強引な動機に過ぎない。そうした欠点はあるものの、劇として(戯曲としても)相当に良くできたものである。2022/02/24
まふ
106
シチリア王とボヘミアの王様の「家庭劇」。全てはシチリア王リオンティーズの「ボンクラ」としか言いようのない誤解に基づく嫉妬と自分勝手な怒りが発端。これがなければ妃のハーマイオニも娘たちも災難に遭わずに済んだはず。全てを失って気が付き、15年の改悛の期間があっても遅すぎるではないか。劇中、目覚ましい活躍をするのが貴族アンティゴナスの妻ポーリーナ。舞台を裏で全て回して全員のハピーエンドとなる。最後は豪華かつ奇想天外なエンディングであり、ロマンス劇の名に相応しかった。2023/10/19
藤月はな(灯れ松明の火)
83
『暴君 シェイクスピアの政治学』の紹介が気になって読みました。愛する妻と弟分とも言えるボヘミア王との親密な仲に邪推を抱き、嫉妬の余り、暴君と化すリオンティーズ。諫める忠臣や舌下気炎に事実を告げる侍女に耳を貸さない暴君も熊も怖い…。特に神託を「嘘だ」と断言した時点で「ああ、お終いだ…」と顔を覆うしかなかった。だが、後半は一気にロマンス喜劇へと舵を取る。特に道化と小悪党、オートリアスとの掛け合いと逆転劇が清々しい。しかし、ラストのあの展開までの16年間を思うと「(早めに)許してやったらどうや?」と思ってしまう2020/12/07
syaori
65
『冬物語』とはよくつけたもので、厳しい冬とその終わり、春の気配を感じる美しい物語でした。王リオンティーズが邪推から友人と忠義の臣、愛する妻を失う前半と、若く美しいカップルを中心に、やくざなオートリカスと道化の軽妙なやりとりなどを交えながら大団円へ向かう後半との対比が際立っていて、前半の悲劇を耐えてきた身には後半の「まばたき一つするたびになにか新しい幸せが生まれるような気配」は本当に心が躍り、夢見心地になってしまいます。シェイクスピアの言葉の翼に乗って悔悟と死と再生、未来に花開く愛の幸福とを堪能しました。2018/10/09
かふ
21
前半の悲劇が強烈過ぎて後半の牧歌的な喜劇はどうでもよくなってしまった。劇としては面白いのか、脚本としては筋がイマイチな気がする。王が后の不倫を疑ったと思ったら次の展開では子どもが出来ていたり、后が生きていたというのもわかりにくかった。捨てられた王女は最初から幸せになるのがわかるような展開なので、途中の話に興味は失せてしまった。時の擬人化の中間部もそれほどいいとは思えず、劇的に時が変化をもたらすのだが小説のように復讐劇の方が面白かったかな。2024/12/19