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内容説明
滑稽、悲哀、苦悩、歓喜、陶酔……。奇蹟としか言いようのない深い洞察力によって人間のあらゆる感情を舞台の上に展開させたシェイクスピアの全劇作を生きた日本語に移した名翻訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まふ
115
第3部で事態は急展開する。ヨーク公リチャードの脅迫に負けてヘンリー6世はヨーク公を王位継承者とする旨約束する。王妃マーガレットはこの約束に反対しヨーク軍に宣戦布告する。ウェイクフィールドの戦いでヨーク家軍は敗れ、ヨーク公は殺害される。ウォリック伯はマーガレットの軍に報復するが、エドワード4世の女性問題で見限りヘンリー王側につく…。と目まぐるしく状況が変わるが最後はヨーク側の勝利に帰す。この「ヘンリー6世」シリーズ全三巻はシェイクスピア史劇の中で最もダイナミックで変化に富んだ名作だと思う。2024/01/01
藤月はな(灯れ松明の火)
82
家族を殺されたグロスター公一家はスコットランド軍を率いて追撃を行う。だが血で血を争う戦いに待っていたのは終わりではなかった。ヘンリー6世は王という視点で見ると魅力が全く、ないが、庶民だったら愛すべき存在だっただろう。無垢だった彼にとって、王という重責よりも羊飼いとしての自由の方が気風にあっただろうに・・・。王位に就いたエドワードに対し、腹に野心を隠したリチャードの傍白に戦慄。ここから『リチャード3世』へ繋がるのか。しかし、エドワードは節制がなさすぎではないかい?いつか女やその元相手に刺され兼ねそう^^;2017/04/25
マウリツィウス
17
【三幕構成の美学】シェイクスピア劇を遠大なものと定義する認識は一義的に誤りであり古典叙事詩の再現化もまた不適切だ。古典戯曲の基礎事項を踏襲することでの明確歴史主題を設定した劇場様式が正しい姿と呼称出来るだろう。ジョイス以降のアイルランド文化誕生を育んだ風土とはカトリックにおける論争を意味している。常に『貴族批判』を刷新化させた英国戯曲詩人の卓抜した才能は正しい基準を帯びる。三幕=三部構成とした選択肢は実際はギリシャ悲劇を再現引用した結果、この歴史主題に見出せるのは《前衛》を打ち砕く古典主義美学の手段意味。2013/07/13
ネロ
14
結局、終始ヘンリー6世は役立たずだった。聖職者として生まれていれば大成したかもしれないが、王の血を受け継いでいるがためだけに殺されて終わってしまった。しかしこの時代に思うのは、神と王への誓約が重いのにそれをすぐに覆し自分に都合のよい誓約に塗り替え裏切りが起こる、なんとも荒れすさむことだ。コロコロと敵味方が変わる貴族諸侯にその臣下や兵はどんな心持ちで戦さに挑み、日々暮らしてたのだろうか。食い生きていくための金目当てで、政治まして忠義なんてなかったのだろうかな。2022/11/23
うた
14
「そう、おまえに救いを求めるものなど一人もいないのだ。自分を救えぬものにどうして他人を助けることができよう」。これが劇中のヘンリー六世を表した最も適切な台詞であり、かつ本作の主題の一つと言ってよいかもしれない。苦難にあい、悟ったまではいいけれど、終盤に実権をウォリックやクレランスに委譲し、あげく手持ちの戦力をことごとく分散させてしまったあたり、知恵と行動を繋ぎ合わせるのは容易ではないということなのか。2016/03/28