内容説明
雅な和歌とともに語られる「昔男」(在原業平)の一代記。垣間見から始まった初恋、清和天皇の女御となる女性との恋、白髪の老女との契り、男子禁制の斎宮との一夜などを経てやがて人生の終焉にいたる様子を描く。
※本作品は紙版の書籍から口絵または挿絵の一部が未収録となっています。あらかじめご了承ください。
目次
透き間から昔男の忍ぶ恋(初段)
春雨をながめて日がな想う女(二段)
ひじき藻に熱い思いを贈りやる(三段)
月と春去年も今年も変わらぬが(四段)
童の崩した築地は恋の路(五段)
芥河はかなき女は露と消え(六段)
うらやまし京恋しやかえる浪(七段)
友と見る浅間の山に立つ煙(八段)
東下り―東国の沢に淋しくかきつばた(九段‐一)
東下り―道暗く夢にも宇津にも逢わぬ女(九段‐二)〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
37
各段を現代語訳→原文→解説の順で書かれている。全体の半分くらいが収録されていて、前半を中心に後半になるにつれ省かれている。解説が平易なのがこのシリーズの特徴だ。現代語を読んだ後に原文を読むと思いのほか読み易い。「100分De名著」でイメージが湧いていたことが大きかったが、原文が地の文と会話文に分かれていて、会話文が概ね歌という規則も読み易い理由だろう。恋愛を豊かにするために言語があり、歌の技巧を挟むことで更に理解が遅くなるはずだが、なぜだか媒介を挟むことで、媒介を挟みたくない恋愛の目的には接近するのだ。2023/04/10
井月 奎(いづき けい)
36
毎度お世話になっております。角川ソフィア文庫ビギナーズ・クラシックス様。本当に助かります。古典や近代の名作を現代訳やコラムで読ませてくれて、なるべく編者の色合いを抑えた編集は古文をさぼりまくっていた私に古典の扉をあけてくれます。その上での『伊勢物語』です。万葉や古今などの和歌集も素晴らしいのですが、歌物語に仕立てたことで、地の文と和歌がお互いに補い合い、まさに昔男の優美さ、その他の恋する人々の心持ちが伝わってきます。人の関わりや恋路の迷路が、なんと人生を味わい深いものにするのかを教えてくれます。2016/11/12
しゅてふぁん
32
歌物語だけあって、有名な和歌がたくさん出てきた。『月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身一つはもとの身にして』と『五月待つ花橘の香をかげばむかしの人の袖の香ぞする』がお気に入り。解説に伊勢物語(平安)→仁勢物語(江戸)→江勢物語(現代)の同じ章段が紹介されていて、それが凄く面白かった!一番共感できたのは、もちろん現代。これはぜひとも読み比べをしてみたい。新たに古典作品を読む毎に読みたい本が増えていくなぁ。2016/07/28
べる
29
心打たれる短編が多い『伊勢物語』は昔から人気が高く、その後の物語や歌を詠む者にも大きな影響を与えたことに頷ける。これを読んで人の心に宿った力で、また新たな作品が生まれる。昔から現代までそうやって日本人の心が繋がってきていること感じ、古典を学ぶ意義を再確認できた。古今和歌集に並ぶ二首に状況を書き加えて作られたと考えられる段などがあり、和歌の凝縮された三十一音から物語を作る当時の人々の想像力は本当に素晴らしいものだと思った。素敵な和歌が多くある中で、「筒井筒」の幼なじみの女の和歌の一途さがキュンとして好き。2019/11/08
Kouro-hou
25
原文、訳文、解説がセットになった抄訳シリーズ。今回は日本が誇る和歌界のヒーロー在原業平、と言われる昔男が主人公の「伊勢物語」。後に神になったり分身したりする業平ですが、この段階は普通の人間。彼女を背負って京を脱出、しかし彼女は夜中に鬼に食われて一撃必殺、って教科書でやった時は文字通り食われたって信じてましたよ!彼女兄に取り戻されたという解釈があったんですね。ふーむ。基本は男女の粋なやりとりがメインなんですが、ご飯を自分で盛って食べるだけで田舎女扱いされるとは、平安時代は地獄だぜーと思いました。2018/04/15