内容説明
いまだ出現しないものをすでに見てしまっていなければならないというのが、私が文学に無理強いに負わせている凝視力であるが、ここに収めた文章のなかでそのような架空凝視の機能について充分言い足りているとは思われない。そのような主題が一本の芯となって連なっていない感じがしても、架空凝視の機能の展開は小説の方に譲って、ここではただ幾つかの文章のそこかしこにその文学的志向が隠見しているだけでよしとしなければならない。私のこれまで書いたエッセイ、評論、回想、随想などのすべてをここに集める……。(評論集「あとがき」より)
目次
Ⅰ
公正者 大岡昇平
『野火』――昭和の一冊
三つの火
島尾敏雄を悼む
感覚の全的昇華――島尾敏雄の想い出
島尾敏雄とマヤちゃん
最大不幸者
敏感な直覚者
弔辞 平野謙
平野謙を想う
回想の平野謙
わが友
批評の惨酷性と真実性
平野謙と荒正人
粋な日本人代表
阿部さんの想い出――附、安部公房のこと
花幻忌と邂逅忌
Ⅱ
忘念の出発点――無限 ――自分と出会う
人類の死滅について
難解者
時は過ぎ行く
昭和の言葉
視覚文化の青春
古い時代の読書
深夜のマラルメ
『悪霊』と『白痴』――小説性と映画性と演劇性
森泉笙子『天国の一歩手前』跋文
森泉笙子『新宿の夜はキャラ色』跋文
永井登志春『遙かな求法の旅』
土方巽のこと
胎内瞑想
Ⅲ
甘口馬鹿
最低の摩訶不思議性
独り暮らし
余白を語る
目まい
長い長い完璧な恍惚死
討論
小海智子さんのリサイタルに寄せて
この世のほかなら何処でも
ベチカンの濡れた唇――ベティ・カンプスン