内容説明
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日清戦争に始まり、10年ごとに繰り返された対外戦争で失われた無数のいのち。帝国日本の発展の陰で犠牲にされたこうした人びとの「生」の実相に徹底的に寄り添うことで、国益や国家目的の名の下に、人びとのいのちに序列をつけ、選別し、管理し、支配し、動員してきた国家の実態をあぶり出す。さらには、この時代の「いのちを生き抜いた」人びとの言葉に耳をかたむけ、いのちの基盤が弱まりつつある現在社会を考える手だてとする。具体的には、兵士が見た戦争像や米騒動の実態、アジア諸国の人びととの関係、つまり戦争・デモクラシー・アジアの三つの視角から新たな近代史像を掘り起こす。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
樋口佳之
61
本巻でとりあげた「いのち」の序列化に身をもってあらがった人物は、これまでの通史にはほとんどとりあげられなかった「無名」の人びと…だが、あらためて確認するまでもなく、彼ら/彼女ら、もしくはそのようなくくり方になじまない人びとこそが、歴史を、社会を支えてきた主体にほかならない…そういった人びとを「無名」のままにしてきたのは…私たち歴史を研究するものの責任にほかならない。それは、これまでの「歴史」が、あまりにも政治史や経済史中心、そして男性中心的でありすぎたから/そのアンチテーゼとしての一冊なのだと読みました。2022/04/03
nnpusnsn1945
47
日清戦争から霧社事件までの近代日本史を描いている。非常に暗い話が多いが必読である。自虐よりともとれるが、明治時代に肯定寄りの猪木正道氏の『軍国日本の興亡』でも中国人差別や日本の朝鮮統治、大逆事件、関東大震災の虐殺については厳しい評価をしているので、そちらも参照をお勧めする。2022/09/01
KAZOO
37
明治時代中期から第二次大戦の前までが書かれています。この著者のスタンスは一貫していて「いのち」というものの観点を重視しているようです。私は右寄りで保守的でこの著者のめざそうとしている方向とは若干立場が異なるのですが、このようなことがあったということで、書かれている内容については知っておいたほうがいいということで読んでいます。とくに田中正造や「橋のない川」などについても敷衍しているのは著者の考えなのでしょう。ほかの歴史書だとあまりページを割かないのですが。2015/02/16
白義
16
日清日露戦争を経て文明国の一員として成り上がっていく帝国日本、それは同時に国民が帝国の臣民として馴化され、文明を基準にした命の序列、ヒエラルキーを内面化していく過程でもある。そうした文明化に抗い非戦論、公害、反植民地の立場に立った人々の闘いに詳細に筆を割き、デモクラシーや民衆運動の影の闇とそのオルタナティブを同時に描こうとする、歴史全集の通史としてはかなり問題意識の強い一冊。田中正造や浅川巧が力点を置かれて紹介されている点からもそれは明らか。通史としてもポイントを抑えているし、今に通じる問題意識が優れた点2017/04/23
かんがく
13
国家に抑圧された少数弱者の「いのち」に着目して大正デモクラシーと呼ばれる時代を描く。著述の対象は被差別部落、植民地人、女性、労働者など教科書でも一般的なものから、ハンセン病患者や、私娼、台湾の山岳民族などにも及ぶ。その視点から、日本の外交、思想、政治が描かれていて読みやすく、新しい発見もあった。2020/08/17