読書という航海の本棚

和書日本の最終講義（増補普及版）

聴講生になった気分で、著名な研究者の講…

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タグ学問探求

電子版あり

著者の名は、日本語表記で郝景芳。中国のSF作家。邦訳は今年の３月に『流浪蒼穹』（早川書房）として刊行された。表題の漢字は、原題と同じようだ。
　英語版を選んだのは、単純に日本語版よりも安かったから。幸い、国内に在庫があり短期間で入手できた。そして英語への翻訳者がKen　Liuだったからだ。この米国人の英文には『三体』三部作の１と３で酔いしれたからだ。（コメント参照）
　英語版のタイトルはVagabonds。故郷がなく土地から土地へ彷徨する人の意味である。人間でありながら、地球と火星という惑星の狭間で、精神的な放浪者となった登場人物達に注目した上での英訳だと感じた。
　時代は22世紀。地球と開発地だった火星のあいだで戦争が起き、そして火星の独立で争いが終結した後の時代。未来に向けた友好関係構築のため、火星人の少年少女たちが使節団として地球に派遣され、地球の各地で５年にわたる楽しい生活を経験させられる。（東京では地震で怪我をした者もいたが）
　物語は、彼らが、火星の家に帰る場面から始まる。22世紀の科学技術が安全な定住を可能にした火星での生活の描写は無機質だが、地球と火星の価値観の両方を経験したが故に情緒不安定を感じるようになった主人公の女性の揺れ動く心理は、建物の素材であるガラス、生活を円滑にするための機械システム、そして彼女が打ち込む舞踏での身体等をとおして、有機的に描写される。ハードウェアとソフトウェアの物語的な融合である。
　両親の死、戦争に係わった祖父の役割。そして戦争勃発の原因の探究と、推理小説的な要素も含まれており、一級のSF長編となっている。
　筆者は、1984年生まれの女性。管理社会化する火星に生まれた主人公の少女に「自由の定義とは何か」と問いをぶつける場面は、世界に目をむける筆者自身の葛藤の吐露のような気がした。

タグ対立、過去

洋書 Granta誌「日本」特集 Granta 127: Japan

Granta　は英国で発行されている文…

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タグ日本

和書日本幻想文学集成〈１８〉豊島与志雄豊島与志雄

読書の連鎖で、忘れ去られた作家に出会う…

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タグ幻想文学

電子版あり

和書科学者はなぜ神を信じるのか - コペルニクスからホーキングまでブルーバックス

最寄の店舗でブルーバックスの棚を眺めて…

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タグ神、宇宙論

和書英国建築の解剖図鑑

店頭で偶然見つけた一冊。表題には「図鑑…

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タグ英国建築、レンガ

和書ＭＯＮＫＥＹ（英語版）〈ＶＯＬ．２〉ＴＲＡＶＥＬ：Ａ　ＭＯＮＫＥＹ’Ｓ　ＤＯＺＥＮ

『モンキー』は文芸雑誌。その最初の英語…

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『モンキー』は文芸雑誌。その最初の英語版を店頭で見たのが2020年の秋だったと思う。関心をもったが、優先順位では低く、いつの間にか2022年になった。
　そして、英語版の２冊目だ。去年から目にしていたが、先日、立ち読みをしたら驚いた。澁澤龍彦の作品が英訳されていたからだ。題名を見て、すぐに『高丘親王航海記』だとわかり、今回は、躊躇なく購入した。
　『モンキー』は、比較的若い日本人作家の作品を英語で紹介していくのかと思っていたので、澁澤との再会は、喜び以外の何物でもない。この作品は、澁澤が死の直前に刊行した、所謂遺作である。『澁澤龍彥綺譚集II』（日本文芸社）でこの傑作を読んだ。1994年１月のことである。
　英訳版は、その第一章だけだが、読み始めると、原著の雰囲気が蘇ってきた。澁澤が意識したであろう死出の旅の始まり。冒頭で67歳との記述がある。その年齢に近づいてきたこの時期に、文芸誌の新たな試みの中で、『航海』を共にできることに、「運」を感じた次第である。
　他の英訳作品も多岐にわたり、充実した内容をこの価格で読めるのは、大いに評価できる。『高丘親王航海記』も完訳をめざしてほしい。
　大満足なのだが、一点、残念なことがある。作家のローマ字表記が、いまだに姓名の順序を入れ替えていることだ。（旅券で1992年に改善されたように、政府は是正を推奨してきた。）
　紀伊國屋太郎は、KINOKUNIYA　Taroであって、Taro　Kinokuniyaではない。中国や韓国の人名は、英語としても母国語表記の順番で書くのに、なぜ、日本人の場合は逆にするのだろう。Taroはfirst　nameではなくgiven　nameなのに、どうして最初にもってくるのだろう。
　一時代前の漫才の「欧米か！？」のギャグのつもりなのだろうと思っていたが、今回、改めて読んだ『高丘親王航海記』の最初の章に答えがあった。antipodeである。つまり、日本人は、英語の世界では「対蹠人」として振る舞いたいのだ。
　澁澤龍彦が1980年代に海外旅行に持参した旅券には、Tatsuo　Shibusawa（本名）の印字があったはずだ。この「さかさ」の視点が、以降の創作に活かされていることは間違いない。
　長年のもやもやは、澁澤が払拭してくれた。

タグ高丘親王航海記、澁澤龍彦、対蹠人

電子版あり

和書いかにして超感覚的世界の認識を獲得するかちくま学芸文庫

著者の名前を知らされずに本文を読まされ…

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著者の名前を知らされずに本文を読まされたら、あたかも仏教の悟りへの道を説く指南書だと勘違いしてしまう内容だ。
　例えば、「蓮華の十六弁」の説明では、「八枚は、すでに太古の時代に開発されており」とある。原文をあたる余裕はなく、蓮と睡蓮の混同が気になるものの、ラフカディオ・ハーンによる「仏教の八つの知恵を蓮の花弁に例えた件」（Exotics　and　Retrospectives,　ICG　Muse,　Inc）を思い出した。
　ルドルフ・シュタイナーはオーストリア生まれの思想家・哲学者。キリスト教圏で教育を受けたなかで、「蓮」に注目したのは、おそらく、若い頃から、オカルトや古代文明の知恵にも関心があったからだろうと推測する。「蓮の花はムー大陸の象徴」（チャーチワード、The　Lost　Continent　of　Mu,　BE　Books）だったし、Seven　Flowers（Jennifer　Potter,　Overlook）という本を読むと、古代エジプトでは蓮の花が死者への弔いに使われている絵が紹介されている。
　しかしながら、シュタイナーの眼差しは極めて現実的だ。人間の本質への真摯な探求心は学校設立へと昇華し、「その学校は今日でも、世界に900校以上存在している。」（出口治明『哲学と宗教全史』ダイヤモンド社）この本が愚民にならないための人生の啓蒙書としても読めるのは、独自の教育理論が背景にあるからだ。道徳の授業での学校長の訓話のようだ。
　このように、本書は、教科書にも掲載される宗教的な教えと、疎外されてきた神秘主義の奥義の狭間で読むことができる。他にも、著者が残した業績書は数多く、日本語版も複数が出版されている。訳者の高橋巌は、シュタイナー研究の第一人者として、シュタイナーが説いた「人智学」の日本での普及に尽力したようだ。
　本書を読むと、表題の「超感覚的世界」の魔力に魅入られることになる。なぜならば、意識、潜在意識、そして無意識の心の各層が、読書という脳内体験により融合し始めるのを、ことばでの表現の域を超えて実感するからだ。
　この一冊が、読書の地平をさらに押し広げた。

タグ人智学

電子版あり

和書教養主義の没落 - 変わりゆくエリート学生文化中公新書

本書には「1970年前後まで、教養主義…

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本書には「1970年前後まで、教養主義はキャンパスの規範文化であった。」とある。自分自身の大学生生活を回想すると、「没落」がすでに顕著になっていた時期にキャンパスに通っていたことが再確認できる。
　授業には出ないで単位をとった科目もあれば、卒論も、指導教員と会ったのは提出後の面接の時だけだった。今思えば、堕落はしなかったものの、教室内での勉学については、「不真面目」な学生だったと思う。
　しかしながら、教養主義らしきものの重要性は、「それを引き継いだ社交」（『視覚文化「超」講義』石岡良治、フィルムアート社）をとおして、多少なりとも意識できていたと思う。
　本書は、副題にあるように、大正時代の旧制高校から戦後の大学にいたる高等・専門教育の根底となるべき教養主義の変遷をつづった「高等教育史」である。
　各時代の大学生に対するアンケート調査結果等は、単なる参考情報の域にとどまる内容だが、著者の真摯な眼差しは、「学士」の重みを理解しようとしなかった私には、遅かりしカンフル剤である。
　仕事を続けてはいるが、定年後は「学生」の意識に戻るとコロナ禍前の同窓会で宣言しているので、この読書を契機に、喪った教養を磨くべきだった大学生としての時間を取り戻す決意を改めて確認したところだ。
　本書を推薦する佐藤優は、「教養は不安に耐える力」と書いている。（『野蛮人の図書室』講談社）帯には、「生き残るために、今、読むべきロングセラー」とある。
　「生存」はともかく、老後の憂さ晴らしで、迷惑、犯罪あるいは暴力という愚行にはしるような「無教養」な人物のまま、死期を迎えたくはない。
　実りある終活の一助になる。

タグ教養、高等教育

電子版あり

和書穴新潮文庫

「穴」に落ちる話といえば、『不思議の国…

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タグ多元宇宙

和書空海

空海については、知識が少しずつ増えてき…

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タグ空海、強運

電子版あり

和書世界の果てまで連れてって！・・・ちくま文庫

店頭でホイチョイ・プロダクションズの作…

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タグ女優、破廉恥

和雑誌古寺行こう（２０２２年３月２９日号）

来月、所用で京都へ足を運ぶことになり、…

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来月、所用で京都へ足を運ぶことになり、予定を調整して観光もすることになった。限られた時間で選んだ場所が、東寺だ。駅から近いこともあるが、言うまでもなく五重塔が手招きをする。
　本書でも冒頭で紹介されている。この五代目については、辻惟雄が『奇想の図譜』（ちくま学芸文庫）で論述した「東寺五重塔からの眺め」で「舟木屏風」の扇型の視界のかなめの位置に東寺があるという指摘が印象に残っている。「舟木本」をタブレットで眺めながら塔を見上げたいと思う。
　そして、空海。この僧侶の生涯と業績は、松岡正剛の『空海の夢』（春秋社）に詳しい。「東寺については、いささか緊張をはらんだ対峙の感覚を求めて幾度となく訪れてきた。」と書かれている。空海が追い求めた夢に入り込むためだろう。
　「京都で人と会うときはいつも東寺で待ち合わせ」と司馬遼太郎は、本書に寄稿している。東寺へ行く前に、『空海の風景』を読んで、小説としての空海にも出会っておきたいと思う。
　三つ目の理由は「曼荼羅」だ。仏像以上に想像力が刺激される。立川武蔵が『マンダラ』（学習研究社）で指摘した「東寺「マンダラ空間」の謎」は刺激的だ。「空海が意識した神々の配置」が言及されている。
　片袖折り（四つ折り）で飛び出してくる「胎蔵界曼荼羅」と「金剛界曼荼羅」をあらためて凝視していると、幾何学的に配置された古の神々の姿をとおし、古代インドで繰り広げられたであろう空中での戦闘を妄想してしまうのである。壮大な『マハーバーラタ』の物語に思いを馳せる。　
　表紙には「見て感じる神秘の世界」とうたわれている。これこそが「観光」の真髄である。光を観るのである。
　現地へ行くまでは、これらの紹介された図版を堪能したい。

タグ五重塔、空海、曼荼羅、観光

和書眼差しの世界 - 視覚社会学の展開

今年の夏に読んだ米国の一般向け科学雑誌…

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タグ視覚化、物語、ナイチンゲール

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洋書 Vagabonds

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