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早稲田文学〈２０１４年秋号〉特集：新世代の幻想文学

少々古い季刊誌だが、「新世代の幻想文学…

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幻想文学、マルケス、翻訳

私にとっての高原英理は、小説家というよりも、幻想・怪奇文学の案内人である。2021年５月に読んだ『エイリア綺譚集』（国書刊行会）をもちろん堪能したが、今回は、月下の果樹園という幻想空間を舞台に語られる怪しげな作品の紹介に酔いしれた。『ゴシックハート』（講談社）と『ゴシックスピリット』（朝日新聞社）を読んだ頃（2004年、2008年）を思い出した。当時、読むべき書籍だったのだ。しかしながら、新刊のような印象で読み進めることができた。
　上記の２冊同様、著者が注目するのは、文学史での分類では異端作家の作品あるいは文芸作家の幻想小説だが、本書の表題を比喩につかえば、月の裏側で創作された、現実的な視点では目に入らない別世界で紡がれた小説である。
　本書で、月光で届けられた作品群を美彩な果樹に変容させ、怪しげな芳香で酩酊させるのは、著者の繊細な筆致である。澁澤龍彦、中井英夫、稲垣足穂、江戸川乱歩等、懐かしい作家との再会の中で、新たな発見に驚愕することもある。
　また、読みのがしてきた作家達との初めての対面の機会ともなった。岩井俊二と尾崎翠である。
　映画監督でもある岩井俊二については、小説と隣接分野との融合による新たな文学の意義を考える意味で、これから著作を幅広く読んでいくことにした。個人的には、仕事が経済的本務と化していた30年間を、精神的に取り戻すために必要な作家だと思う。
　尾崎翠については、日本文学史で名前も取り上げられない小説家だったようだが、最近は再評価の動きで、ウェブ紀伊國屋でも主要作品は入手可能である。経歴を見ると決して短命ではなかったが、作家としての活動時期は短かったようだ。第六感も超える『第七官界彷徨』は、すぐにでも手にとりたい作品である。
　月の光を浴びることで、狭い書斎がますます息苦しくなる現実を忘れることができた。Lunar　Societyを想起する機会ともなった。啓蒙(enlightenment)に必要な「光」は、夜にも降り注ぐのだ。

異端作家、幻想文学