『火星三部作』の最終作。2027年に「最初の百人」が入植してから100年以上の時を超え、海を持つようになった「青い火星」が舞台だが、さらなる太陽系開発に乗り出す場面も描かれている。2212年でこの未来史は幕を下ろす。 on Marsという表現が5回繰り返される浜辺での寄せては返す波の描写で終わる最後の場面では、『百億の昼と千億の夜』(光瀬龍)の「序章」を思い出した。 「時間の矢」とともに数直線的に展開してきた火星移民史だが、後半になって、科学技術で長寿化した「最初の百人」の脳の老化を取り上げる件では、「意識の流れ」にも言及があり、記憶は円環することが暗示されている。 政治的な衝突と紛争、テロと破壊を乗り越えて築かれた新しい母なる惑星。科学技術の進歩があっても、失われることのない人々の思い。3巻で2000頁を超える超大作。(邦訳の文庫では6冊)たどりついたのは、悠久の時と重力が奏でる波と砂の共演の場所。目前に広がる海の彼方へと思いを馳せる。