今年(2025年)の7月に映画『ジュラシック・ワールド/復活の大地』が公開された。関連記事をインターネットで読んでいたら、次の一節を見つけた(MOVIE WALKER PRESS)。「泳ぐTレックス”をついに映像化!...実は、クライトンの原作小説には、コープが脚本を務めた最初の2作でやむなく断念したシーンが存在する。今回、スピルバーグとコープはそれを再現する決意を固めたという。それは、登場人物たちの目の前に、狩ったばかりの獲物を食べ終え、浅瀬でまどろむTレックスが現れるという印象的な場面だ。」 そこで、原著であるJurassic Park(1991年8月に読了)を見直したら、「マイケルの原作小説に登場するあの描写が、僕らは昔から大好きでした。」という場面に戻ることができた。 引用すると、And suddenly they heard an answering roar, floating across the water toward them. Looking back, Grant (古生物学者)saw the juvenile T-rex on the shore, crouched over the killed sauropod, claiming the kill as its own. 映画の『ジュラシック・ワールド』シリーズは原作から独立した展開になってしまって、小さな揺れがシステム全体を崩壊させることがあるという機械による制御では、遺伝子工学による生態系の管理は不可能であることを、著者が問題提起した小説としての意義が喪われてしまうのではないかと危惧している。 これらの作品群が単なる娯楽ではないことを再確認するためにも、本書は読み継がれるべきだと感じている。
H.G.ウェルズは、言うまでもなく、現代SFの礎を築いた英国の小説家。代表作は早川書房の世界SF全集第2巻(1970年3月)に収録された『宇宙戦争』、『タイムマシン』と『透明人間』だろう。 しかし、この作家の作品はこれらばかりではない。当時、科学ロマンスと言われた幻想的な作品も多く、この短編集にもファンタジーに分類できる小説が複数収録されている。 特筆すべきはThe Door in the Wall。SF研究家の石川喬司は『SF・ミステリおもろ大百科』(1977年、早川書房)で、「H・G・ウェルズの短編に『塀についたドア』というしみじみした味わいのある秀作がある。」と、この作品を紹介していた。 ほぼ半世紀を経て、原文で異次元への扉を開けたわけだが、こどもの頃、白黒のテレビ画面で食い入るように見ていた『ミステリ・ゾーン』(Twilight Zone)のオープニングで扉が象徴的に写し出されていたことを思い出した。この読書で、間違いなく私の意識は過去へ戻ったのだ。米国人の番組プロデューサーもウェルズのこの短編を読んでいたに違いない。 もう一つはUnder the Knife。和訳すると「手術を受けて」という意味になる。潜在意識下で主人公が感覚的に体験する宇宙規模の臨死体験、あるいは壮大な夢を描いた作品。万華鏡を覗くような描写に引き込まれる。 中編の『タイムマシン』を含め、21編が収録されているが、どの作品が翻訳されてきたのかは不勉強のため不明。母国の英国でも、この短編集は古書でしか入手できないようだが、ウェルズという小説家の多様性を知るにはよい編集だと感じた。