著者は1947年にウェールズで生まれた英国の女流作家。20冊の長編小説を発表してきたにもかかわらず、翻訳は皆無で日本語の情報は極めてすくない。推測だが、彼女の作品が米国ではあまり読まれていないからかもしれない。この小説での語り口は非常にゆっくりで、私の感覚では、大都市で生活するアメリカ人のリズムとはかみ合わないのだと思う。他の作品も同じような筆致なのだろう。 表題を訳せば、「奇術師」になる。舞台はヴィクトリア朝1885年のロンドン。主人公の若い女性の人生を変える奇術師が見せる幻覚を楽しむには、物語の進行に、たとえそれがもどかしく感じられたとしても、身をゆだねるのが賢い読書法だろう。物語は、1897年6月のヴィクトリア女王の在位60周年記念式典を祝う雰囲気の中で幕を下ろす。 産業革命の影響で、大衆向けの娯楽にも変化が生じている様子が、ところどころで見ることができるのも興味深く視覚的な印象にのこる。そのような場面は、著者自身のHPで短い動画で確認することができる。 巻末には著者のインタビューが掲載されていていて、本書の続編としてDaughter of the Houseが刊行されていることが分かった。 日本語で読めない作品を人知れず楽しむのが「孤独の読書」。