内容説明
明治初頭、かつての人足寄場、石川島は大牢獄と化していた。その地獄絵図を目の当たりにした元八丁堀与力、原篤胤は美しいクリスチャン姉妹とともに、出獄人保護を行う仕事を始める。多くの囚人を更正させようと奮闘する彼らのまわりに集まる犯罪者たち。彼らの前に立ちふさがる冷酷非道な看守や巡査。それらはやがて一つに繋がり自由民権運動の闘士たちを巻き込む事件に発展してゆく。岸田銀行、小林清親、星亨、ドクトル・ヘボンらも登場し繰り広げられるロマンの決定版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
geshi
22
明治初期を舞台にした因果の物語が山風お得意の悪VS悪の戦いへと行きつく。実在の人物を登場させながら、いまだに江戸を引きずっている空気を漂わせる文章のうまさは、流石の一言。ほんのちょい役でも人物像を見せるキャラクター描写がされていて、山風を読む楽しさがいっぱい。出獄人たちが自らの悪の本性から逃れられず、それでも聖者のために己の全てをなげうつ熱さ。エピソード一つ一つは面白いんだけど、血戦へなだれ込むまでの前フリとしてはスロースタートに感じるのも事実。2019/03/02
きょちょ
15
維新前後の各藩の悲劇が、登場人物それぞれの人格形成に大きく影響を及ぼしている。5人の巡査・看守と悪党5人が結束して、主人公原胤昭やその周辺人物を脅かすあたりから、物語は面白くなる。風太郎の明治小説をずっと読んでいくと、基本的に風太郎は維新や維新後の政府高官を否定的に捉えていることがわかる。もっと言えば、維新が無ければ日清・日露戦争も、そして太平洋戦争も起こらなかったのではないか、という事を暗に読者に語っているようにも感じる。★★★★2015/10/26
キムチ
10
教誨師原胤昭が若い頃を述懐する形で展開する物語。 5人の犯罪者が権力と対峙する因縁めいた場面を面白おかしく描いている。例の如く、ひょんなところに歴史の著名人がぬらりと登場するのご愛嬌。 原が奉行所時代に世話になった方の娘姉妹と出獄世話所を開く羽目になって・・ 十手と十字架、両極端の意味をもつものが合体した両鉤十手。 その物体に物語の・・原の社会を足蹴りにする想いが込められている感じがする。 でてくる人間の名前が凄い・・ぬらりひょん、サルマタ、化師、邯鄲・・山風先生の筆が遊びまわっているようで。2013/09/09
河内 タッキー
5
不幸というのは不可抗力的に向こうからやってくる。誰しも不幸なんて嫌で、それを避けるために最大限の努力をして人生を乗り切って行こうとしているのに、全く頼みもしないのに、寧ろ避けたいのに想像外の不幸が向こうから勝手にやってくる。そんな人生の不条理感を思わせる。下巻でどう挽回してくれるのか。2015/04/12
やまほら
3
山田風太郎の明治小説らしい本ではあるのですが、ちょっと読み進めるのに時間がかかった。「早く続きを読みたい!」って感じにならなかったんだよなあ。下巻に続く。2019/02/18