内容説明
未知の国との出会いの地点「港」。波頭を別けて辿りついた人、出て行った人、通り過ぎた人々を描いた連作集の前篇。本巻には後の大博物学者、南方熊楠や自由民権運動に燃える北村透谷らの青春時代を綴った「風の中の蝶」、旧知の娘を人買いから救出しようと奔走する樋口一葉と黒岩涙香の活躍を描いた「からゆき草紙」他、三篇を収録する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
101
山田風太郎の明治小説全集の6作目で、6つの話がありますが、この上巻では3つの話が収められています。実在の人物を登場させそこに山田氏による脚色によって面白さが出ています。「それからの咸臨丸」では吉岡艮太夫と榎本武揚、「風の中の蝶」では南方熊楠と北村透谷、「からゆき草紙」には樋口一葉と黒岩涙香が登場して当時の話を興味深く語ってくれています。読みやすく楽しめます。2025/03/08
Sam
52
山田風太郎明治シリーズ。3つの中編からなる。「それからの咸臨丸」では吉岡艮大夫の武士としての矜持や榎本武揚の融通無碍の生き様を、「風の中の蝶」では自由党の壮士たちの国家転覆計画が儚く散っていくストーリーを骨子に北村透谷や南方熊楠の人間模様を、そして「からゆき草紙」では樋口一葉が旧主家の娘が女郎に売られる危機を救うべく我が身を賭して活躍する姿を描く。どれも素晴らしい作品。渡辺京二の「明治の幻影」を読むと「からゆき草紙」がいかに巧妙に虚実取り混ぜたストーリーになっているか分かる(明治ものに欠かせない副読本)。2023/04/09
Yuji
13
明治物、中編が3つ。「それからの咸臨丸」が切な過ぎて泣けた。妻子を蝦夷に連れて行くだけでも大変なのに、弟との約束を敢えて守って、監獄に帰って行く決断を。「武士の約束だ」かなんな云って。元婚約者の一言。「私は罰を受けました」も実にキマシタ。2017/01/19
ちゃま坊
12
「それからの咸臨丸」勝海舟と共に咸臨丸で渡米した吉岡艮太夫のその後。子母沢寛「勝海舟」にも多く登場していた人物。親分肌で腕が立つ、学問もある豪快な男。逸話がすべてドラマチック。維新後はあまり恵まれなかったが、本物のサムライだった。2019/03/24
きょちょ
10
「波濤は運び来たり 波濤は運び去る 明治の歌・・・。」と序章にあるように、「維新」という激しい波が来て去った後の、切なく哀しい物語が上巻は3作。「それからの咸臨丸」は特に哀しい。他の2作には、北村透谷、樋口一葉が登場。彼らの周りの人たちを哀しく描く。 作品とは外れるが、透谷も一葉も20代の若さで逝ってしまったのは実に残念。透谷と夫人ミナとの馴れ初めは初めて知った。 また、「たけくらべ」久々読みたくなった。★★★★2015/06/10