内容説明
広大な帝国の安全保障、千万の人々を養う食糧の確保、そして金融危機や大災害への対処。アウグストゥスから帝国を引き継いだ四人の皇帝は、その責務を果たせたのか。「恐るべき」と形容された第二代皇帝ティベリウス、愚政の限りを尽くし惨殺されたカリグラ。悪妻に翻弄され続けたクラウディウス。「国家の敵」と断罪されたネロ。悪名高き皇帝たちの治世の実態とはいかなるものだったのかが明かされる。 ※当電子版は単行本第VII巻(新潮文庫第17、18 、19、20巻)と同じ内容です。
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行雲斎の本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
61
カリグラは東方の諸王子との交流から何を学んだろう。ローマといえども世界の一部、皇帝も一人の人間に過ぎない…とならばよいが、逆に妄想を膨らませたのでは? ゼウスを真似て金髪に染めたり、残虐な見世物に打ち興じたり。すべては神を装う自己顕示であり、民衆の歓心を買おうとする卑しい所業だ。著者は彼の言動をつぶさに観察した上で、頭のよい、けれども政治を知らない青年だという。一方、暗殺者ケレアは、長い軍務の中で「小さな軍靴」カリグラを忠実に守り続けた武人であろうと推測している。作家としての想像が混じる所も本書の魅力だ。2015/03/26
James Hayashi
36
パックスロマーナの帝国としては安定していたのであろう。50年余りで4人の皇帝。外圧に屈せず、大きな内乱も見当たらない。ガリアに兵は張り付き、パルティアにはなかなか勝てなかったが。ローマに組み込まれることにさほど抵抗を見せなかったのは、パンの配給もあり餓死者がほとんど無かったからか。カリグラは税制改革など行いポピュリズム的な政治を行うが、経済的破綻を招いた。暴君ネロは好きな女と結婚する為、母親と妻まで殺してしまう。そしてキリスト教徒迫害。それでも続くローマ帝国。奥の深い国である。2017/11/25
白義
24
ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロと綺麗に生真面目と放蕩が行ったり来たりしているのが面白い。悪帝として有名なカリグラもネロも、若さゆえの活発な感性と繊細さゆえにと同情的に描き、イメージを変えるのはさすがの筆力。一方で、自分自身の評価をうまくコントロール出来ない老獪さの欠如は四人とも厳しく批判され、ティベリウスらの功を強調するほどアウグストゥス時代の圧倒的な影響力の方がかえって印象付けられるようにもなっている。ナイーブな芸術家皇帝としてのネロの姿は最期も含め物悲しさも漂う2015/04/04
ロビン
19
7巻は、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロの四代にわたる皇帝たちの治世を描く。ティベリウスはアウグストゥスが創ったローマ帝政の基盤を盤石にした人物で、地味だが優れた為政者だと思うが、緊縮財政を行ったため評判が悪かったらしく気の毒だ。クラウディウスも歴史学者から皇帝になり、元老院にも誠心誠意で接し公共事業などもよく行い善政をしいたと思うが、死後セネカにパロディを書かれ笑いものにされたらしくかわいそうである。人間性とは複雑で厄介なものであり、常に誠意が通じると考えるのは甘い、との著者の認識が苦い。2022/06/27
俊
19
第二代から第五代までの皇帝たちの再評価といった趣の巻。特に第二代ティベリウスと第四代クラウディウスは、カエサルが構想しアウグストゥスが築いた統治システムをより強固にしたとして著者は評価している。また、第三代カリグラと第五代ネロに関しては暗君、暴君と単純に切り捨てるのではなく、彼らの行動と人間性を丹念に描くことで、ポジティブな面も浮かび上がらせている。印象に残ったのは、ティベリウスの「家出」とクラウディウスの演説。弱さや欠点を持つ人びとの物語は、カエサルやアウグストゥスの英雄譚とはまた違った面白さがあった。2014/04/15