世の中の騒ぎで、かねがね考えていた読書のあり方がまとまった。「三密」である。もちろん感染拡大とは関係がない。時間の密度がます「時密」、知識の密度がます「知密」、そして思考の密度がます「思密」である。 Life 3.0(邦題『LIFE 3.0 人工知能時代に人間であるということ』)がまさにこの範疇での読書経験だ。 英語での副題はBeing Human in the Age of Artificial Intelligenceで、翻訳に問題はないが、humanには「動物や機械と異なって」という含蓄がある。つまり、ホモ・サピエンスとして、人工知能が人間の知能をこえていくと予想あるいは懸念される未来社会において、どのように人工知能とかかわっていけばいいのかが解説されている。 しかしながら、進歩する情報術科学の単なる入門書ではない。138憶年前の宇宙創成(ビッグバン)への遡及と数世紀先までの展望がある。わずか数日の読書時間が深淵な時間に変容する。(時密) 人工知能の開発の現状、将来性、社会的問題点などについては、宇宙物理学者としての視点で解説されていて、表、図の挿入も難解な事象の理解に有益だ。各章の最後にまとめが箇条書きされているのも理解を助けてくれる。良い意味で教科書的な構成だ。(知密) 最後に、読者は宿題を課せられたことに気づかされる。人工知能の進化は決しては他人事ではないということだ。思想家の引用も複数あり、最新の科学技術を知るという次元を超え、「自分は未来に向けて何をするべきか」を考えざるを得なくなる。(思密) 著者は科学で解明できていない「意識」についても、積極的に定義づけに取り組んでいる。物理学と形而上学が融合する境界だ。ここまでくると、この本が「哲学」の問答書だということが分かる。 残念ながら、私個人は未来にむけて大きな社会貢献はできそうにないが、「人」として三密の読書を続け、II(inborn intelligence)を高めていこうと思う。