内容説明
皇族であることを知られたのちも、変わらぬ学友や軽業師ディアたちと平穏な日々を過ごすユリアヌス。だが、副帝となった兄ガルスの謀反の疑いから、宮廷に召喚され、裁かれることに……。そこで出会った皇后に女神アテナや母の面影を見出すのだった。【全四巻】
〈解説〉金沢百枝
〈巻末付録〉連載時日記(抄)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あきあかね
30
「ユリアヌスにとって、この地上の権力の興亡などは、何かヘロドトスの一節よりもはかない一場の夢のように感じられた。たとえローマ帝国が地中海の全域を含み、霧の深いブリタニアから、熱風が砂漠の砂を巻きあげるシリア、メソポタミアまで拡がろうと、所詮、それは日々の流れのなかで生滅する現世の事柄にすぎなかった。若いユリアヌスが関心を抱いているのは、そうした時の流れに浮沈するものの姿ではなく、あくまでそれらの奥にある永遠不変の思念の世界だったのだ······。」 またしても、ユリアヌスは運命の波に翻弄される。⇒2020/10/11
tosca
28
だいぶ人物名や地名に慣れたため、2巻はなかなか良い感じで読めた。政治や権力への野心は無く学問への情熱しかないユリアヌスにとって、皇帝がむしろ彼を政治から遠ざけるために学問に専念させてくれる環境は居心地が良かったものの、副帝となった兄ガルスが謀反の疑いにより処刑され、またまたユリアヌスの立場もあやうくなる。幼少時に父を失ってから流されるがままに生きるしかなかったユリアヌスが強い意志を持ち始めた姿に読むスピードも上がる。次巻も楽しみだが、純粋過ぎるユリアヌスが心配。卑怯な陰謀で罠に嵌められないでほしい2023/12/27
崩紫サロメ
24
兄ガルスの処刑から副帝即位、ガリア統治までのところ。兄の妃で大帝の娘コンスタンティアが、最初からかなり印象的だったので、ここでの退場は少し寂しい。辻邦生の作品って目の描写に力を感じるんだけど、ここでもコンスタンティヌス大帝一族の「ぎょろりとした暗灰色の目」が恐ろしくて眠れなくなった昔を思い出す。代わって皇后エウセビアが登場。彼女の聡明さ、しかしその聡明さで覆いきれない嫉妬等の醜い感情の描き方がまた何とも美しくて引き込まれる。2020/11/30
たかしくん。
23
副帝となった兄ガルスが早々にコケてしまい、じわじわと主人公に脚光が浴びてきます。ここまでのユリアヌスは、さしづめ「カラマーゾフの兄弟」のアリョーシャとオーバーラップします(勿論、思想は真逆ですが)。また、登場する2人のお妃コンスタンティアとエウセビアが、とにかく強烈に描かれてます!そして、ユリアヌスが「単なる哲学者から、哲学を実現する統治者(p394)」になりつつ、ガリアへ。うーん、この変化は大村益次郎にも似ているかも(笑) 《追加》そうそう素敵な軽業師ディアも、いい働きをしてますね~♪2018/04/07
シタン
18
第五章「皇后エウセビア」・第六章「ギリシアの空の下」があまりにも美しい。歴史を題材にしてこのような芸術が成立し得るとは驚きだ。善と悪がはっきりし、単純化された構図であるがゆえにファンタジー的にもみえるのだが、きちんと史的事実に基づいているようである。学問に生き、しかし政治に翻弄されるユリアヌスの劇的な人生。「言葉で戦う」という表現の破壊力。現実の人生はこんなに美しくない、と思いつつも惚れてしまう。こんなことってあるかい、と思わせつつ言葉の力で読者を牽引してゆく。これは生涯の愛読書になる可能性が濃厚。2020/11/26