内容説明
日の神は、いま、私の生を見棄てられた――!
落日の砂漠に葬列は消えゆく。哲人皇帝の波瀾の生涯、最終巻!
輝かしい戦績を上げ、ガリア軍を率いて首都へ戻るユリアヌスに、コンスタンティウス帝崩御の報が届く。皇帝に即位した彼の果断な政治改革にゾナスら旧友は危惧を覚えるのだった。そして、ペルシア軍討伐のため自ら遠征に出るが……。歴史小説の金字塔、堂々完結!【全四巻】
〈解説〉山内昌之
〈巻末付録〉対談「長篇小説の主題と技法」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たま
51
前巻はユリアヌスの意志の欠如に疑問を覚えたが、(四)で皇帝となってからは公正、寛容など理想を実現すべく全力で任務に取り組む。しかし思想はなかなか理解されず、意図する方向で実現されもしない。国境を脅かすペルシアに向けて進軍し首都近くまで攻め込むが帰路の戦いで落命する。コンスタンティノポリス入城からわずか1年半、教養人の理想と腐敗した帝国の現実との間で苦しんだ日々だった。ユリアヌスの思想と自然描写で織りなした絵巻物の掉尾を、メソポタミアの砂漠に消えゆく葬列の描写が飾り、その苦闘の儚さを示して余韻を残す。2022/07/30
たかしくん。
22
皇帝となったユリアヌス。清貧を旨とする「小さな政府」を目指しますが、ちと理想主義に走りすぎたか、さすがに順風満帆とは行かないようです。更にキリスト教との対決姿勢。帝国自体をほぼ飲み込もうとしているこの新興宗教に対し、ギリシャ哲学を絶対とする彼には、どうしても許せなかったのでしょうな。そしてラストは、ペルシャとの戦い。当時のペルシャは、今現在での想像以上に脅威だったのか? お約束で隠れたヒロイン、ディアも登場します!(笑) 主人公はここで亡くなってしまうのに、いい意味であまり悲壮感の無いエンディングでした。2018/05/06
あきあかね
21
「すでに砂漠に日は傾き、斜光が砂丘の起伏をくっきりとした輪郭で描きだしていた。···ローマ軍団の長い列はその夕映えのなかを黙々と歩き、遠い地平線に消えていった。···すでに夕映えは消えていた。ただ風だけが、空虚な砂漠を吹き、砂丘の斜面にごうごうと音をたてていた。砂はまるで生物のように動いて、兵隊たちの踏んでいった足跡の乱れを、濃くなる闇のなかで、消しつづけていた。」 原稿用紙二千枚目を超え、全四巻に及ぶ一大叙事詩の最終巻。この長大な物語は、海霧の中から次第に姿を現すコンスタンティノポリスの街並みから⇒2022/08/06
崩紫サロメ
21
何周目かな?読了!キリスト教徒なんでユリアヌスのキリスト教認識には「ちゃうやろ」という思いで一杯なんだけど、それでも毎回心動かされてしまうのは、この物語が扱っているのは「思想」ではなく、「人間の生き様」で、自らの理想と現実の間で葛藤し、焦燥に駆られるユリアヌスの姿に普遍性があるからなのだなあ……と。新装版には北杜夫との対談なんかもあって面白いから、旧版で読んだ人にもおすすめできる。2020/12/05
シタン
16
序章でバシリナがみたアキレスの夢、そしてガリアの人々が叫んだ「ユリアヌス・アウグストゥス」の言葉が現実となる。憎むべき皇帝が崩御したときのユリアヌスの胸中は人間の本質を捉えているように思われる。主に皇帝としてのユリアヌスが描かれるが、ここへきて「背教者」という言葉が重くのしかかる。バシリナから始まり、エウセビア、ヘレナ、コンスタンティヌス、ユリアヌス、ゾナス、と死の場面が印象深かった。ゾナスとディアという架空キャラクターの描き方が秀逸。一巻のときにも書いたけど、あまりにも文学的・叙事詩的な歴史小説だった。2020/12/10