内容説明
大帝の甥として生まれるも、勢力拡大を狙うキリスト教一派の陰謀に父を殺害され、幽閉生活を送るユリアヌス。哲学者の塾で学ぶことを許され、友を得、生きる喜びを見出す彼に、運命は容赦なく立ちはだかる。毎日芸術賞受賞の壮大な歴史ロマン開幕!【全四巻】
〈解説〉加賀乙彦
〈巻末付録〉著者による本作関連エッセイ二作
連載開始前に雑誌『海』で抱負を語った「ユリアヌスの浴場跡」、終了直後から『週刊読書人』に連載の「ユリアヌスの廃墟から」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たま
50
今年の夏は『背教者ユリアヌス』で青い海白い波頭銀色のオリーヴ林などを楽しもうと読み始めた。中公文庫版第1冊ではユリアヌスの誕生、彼の父の死、ニコメディアやカパドキアでの幽閉と学業の生活が語られる。テーマは辻邦生お馴染みの永遠の現在と言うべきか。コンスタンティノープル遷都後のローマ史なので小アジアつまりトルコが舞台となっておりそれも私には興味深く、定型感はあるが美しい情景描写とサクサク進む物語を楽しんだ。ただせっかくカパドキアが登場することもあり、初期キリスト教がもっと書き込まれていたら良かったのにと思う。2022/07/09
tosca
28
コンスタンティヌス大帝の甥として生まれながらも陰謀により父を殺され幽閉生活を送るユリアヌスの生誕から十代まで。4世紀のローマ帝国の歴史に疎く地理も史実もよく分からないので逆に新鮮に感じる。当時の地名を地図で確認しながら読むが改めてローマ帝国の広大さに驚く。互いに利用し合う宗教と政治、キリスト教が強大になる中で、ユリアヌスはキリスト教の在り方に懐疑的になっていく。彼の聡明さや繊細さ純粋さは、このあと生きづらくなっていきそうだ。著者の巻末付録エッセイは読み応えがあり、ユリアヌスという人物への強い思いを感じる2023/12/09
あきあかね
25
「濃い霧は海から匐いあがっていた。···時おりそうした白い流れが薄れて、思わぬ近さに、奇妙に黒ずんだ尖塔や、胸壁をつらねた建物の一部が浮かびあがることもあったが、それさえ瞬時に掻き消されて、また茫々と白い霧の流れがあたりを濃く包んでいった。もちろん霧の流れは音をたてることはなかったが、気のせいか、耳をすますと、木々の枝をかすめている素早い気流の音が聞こえるような気がした。」 柔らかに頬を撫でるコンスタンティノポリスの潮風が感じられるような静謐で優美な文章によって、この全四巻に及ぶ大長編の小説は幕を開ける。2020/04/22
崩紫サロメ
23
何度も何度も読んだけど、電子版で再読。一巻に収録されている辻邦生のエッセイ(執筆秘話のようなもの)と併せて読むと、何故この作品に、また辻邦生作品全般に惹かれるのか、納得がいった。辻はユリアヌスの生涯について詳細に調べながらも「作品に内在する素朴な生命力をいかにして十分に開花させるか」を何よりも重んじて執筆したという。自分はキリスト教徒であるが、そういうことを超えてユリアヌスに心を動かされるのは、彼の言動一つ一つに生命力が内在し、それが心を打たざるを得ないのだろう、と。2020/11/26
たかしくん。
23
文庫本がリニューアルして、活字が大きくなったのをきっかけに読み始めました。書き出しの、夜明けのコンスタンティノポリスの情景が、とにかく幻想的で美しい!その端正な書き振りながらも、ストーリーは紀元後4世紀頃の東ローマ帝国の王室での、かなりドロドロとした権力争いがメインとなります。その中で、父を失い、幽閉生活を強いられながら、ホメロスやプラトンといったギリシャの学問に傾注する主人公ユリアヌス。元々、ローマ帝国の時代には、とんと興味の無い私でしたが、ちょっとこれはこの後も読むペースが速くなりそうです!2018/04/03