内容説明
芸能界に確固たる地位を築いた大歌手、橘百合子。その歌手生活37周年記念リサイタルを前に、ふとしたきっかけで振り返った過去――あの時、もし違う選択をしていたら、どんな人生だったのか？ 回想はデビュー直前の昭和８年に遡り、歌手になることのなかった「もうひとつの人生」が浮かびあがる。そこで見えてきた意外な真実とは。人生の切なさを温かく包む、パラレル・ワールド小説の傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
財布にジャック
62
題名の「エロス」を勝手に誤解して、かなり躊躇しました。エロかったらどうしようとドキドキしながら読み進めましたが、そんな心配は無用だったようです。なんでエロスって題名なのかは、かなり後までわからないのですが、とってもいい話で気持ちよく読み終わることが出来ました。あの時もしも違う選択をしていたら、どんな人生が待っていたのかという題材なので、実際自分にもあるあの時を思い出し、勝手に想像してニタニタしてしまいました。マイナス・ゼロも傑作でしたが、甲乙付け難いくらいこの作品も良かったです。2011/06/17
yamatoshiuruhashi
54
広瀬正小説全集第3巻。タイトルからカバーなしで電車の中で読むのは憚られる内容かと思ったが、全くそんなことはない。帝大生と労働運動、組合運動に熱心な都営市電の運転手の無学な姪の恋物語。そこに時代の圧力がかかってくる。その二人の二つの未来。そしてラストにはどんでん返しが待っている。昭和46年を現在とした戦前の恋の行方が、詳細緻密な時代背景から描かれる戦前の東京のリアルさと共に活写される。広瀬正本人が少年として登場するのもまた粋な仕掛け。ヒチコックを思わせる。2022/12/16
kokada_jnet
41
「過去」と「もう一つの過去」で、戦前の、労働者階級の娘と、エリート階級の男性技師とのロマンティックな出会いが描かれて。NHKの朝ドラみたいな話だから、当然、女性メインのストーリーになるのかと思いきや。男性技師の側の即物的なエピソードが延々と続くので、面白くは読めたが、違和感が継続する。男性側の話になるのは、SF的な世界を描くためでもあるのだが。広瀬正が、男性読者を主に想定していたという、時代的な制約もあると思う。2021/06/24
た〜
39
面白かった。マイナス・ゼロでタイムトラベル小説のお手本を示し、こちらではパラレルワールド小説のお手本、とまで言うと大袈裟（マイナス・ゼロの方は掛け値無しにお手本といえる）かも知れないけど、色々上手いなー、と感心させられる。それと、カシラ一家の登場には思わずテンション上がってしまった（笑2016/01/30
miroku
32
どこにSF的要素が？ と思っていたら、最後にやられたあ～♪2019/02/09
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