内容説明
昭和モダン華やかなりし頃、その惨劇は起きた――。関西のハイカラな医師邸に納車された最先端の自動車「T型フォード」。しかし、ある日、完全にロックされたその車内から他殺死体が発見されたのだ。そして46年後、この車を買取った富豪宅に男女7人が集まり、密室殺人の謎に迫ろうとするが……。半世紀を経てあきらかになる事件の真相とは? 著者会心の傑作ミステリ中編ほか2編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
セウテス
55
特色あるSF作品を描いた広瀬正氏の珍しいミステリーであり、遺作となった作品でもあります。作品の舞台より46年前に起こった密室殺人を、集まった人物たちで推理しようとした処、新たな事件が起こってしまう話です。46年前の密室トリックは、伏線もヒントもさりげなくもしっかりと置いてあり、謎解きは難しくありません。しかし謎はそれだけに留まりません。最期に大きなトリックが仕掛けられており、思わぬ処で騙されてしまいます。作者の特徴でもある昭和初期の風景が、写真を観ているが如く描かれノスタルジックな想いに包まれる作品です。2015/03/29
yamatoshiuruhashi
50
広瀬正はSFしか読んだことはなかったが、彼らの世代はミステリィとSFを同時に翻訳、普及させた作家たちだった。広瀬正小説全集で名前だけは知っていたけど初めて読む本作。40数年前の憧れのT型フォードを手に入れた富豪と関係者たちがその当時の殺人事件の謎解きに挑む。SFだろうからどこかでタイムマシンが出てくるのだろうと思っていたが、純粋の推理小説(探偵小説)で、亡くなって半世紀近く経つ作家でそこそこ馴染み深かった作家だったのに、初めての側面を見た。面白かった。尚、短編でタイムリープものの収録あり。お得の一冊。2022/12/13
た〜
27
表題作は登場人物のマニアックな会話が多すぎて、ついていくのが大変だった。短編にして贅肉を削ぎ落としたほうが面白いのではないかな?「殺そうとした」はちょっと怖く、身もふたもないのに思わずニヤリ。「立体交差」は短編でもやっぱりこの人のタイムトラベルものは上手い、と唸らされる。 解説によると著者には10編以上の長編の構想があったとか。それらが書かれることなく著者が亡くなったのは本当に残念でならない。2016/03/05
さいちゃんの母
25
年末に借りたら、期限過ぎて再度の挑戦で完読。広瀬正の遺作とは知りませんでした。'T型フォード殺人事件'は、テンポはゆっくりでしたが、元号が書かれていなければ、現在でも十分に通用する本格派ミステリー、密室殺人事件。'殺そうとした'は車を使った殺人事件を上手くアレンジ。中々の秀作。'立体交差'はSF小説。未来と現代を行ったり来たり、不思議な感覚。(広瀬さんにとっての近未来は今の私には現実)2015/01/10
ist
17
マイナスゼロの広瀬正の作。 T型フォードにまつわる過去の事件の真相に迫る、という筋だが、戦前の人々の暮らし向き、娯楽や便利な道具、遊びに行くところ、考え方などなどが書き込まれているのがすごく興味深い。 タイムパラドックスを起こさないように一度起きたことは可能な限り同じ歴史を繰り返さねばならない、というのを真っ向から否定した立体交差は世界はどうなってしまうんだろう。 2018/05/20