内容説明
足利高氏の心はすでに決している。彼は、名優さながら、なに食わぬ態(てい)で六波羅軍と合した。いつ、最も効果的に叛旗をひるがえすか? 高氏の打ちあげた烽火(のろし)は、まさに万雷の轟きとなった。石垣の崩れる如く、鎌倉幕府は150年の幕を閉じた。――さて建武の新政。台風一過と思ったのは、ひと握りの公卿たちで、迷走台風は再び引返して荒れ模様、武士たちの不平不満は尽きない。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Willie the Wildcat
76
高氏と義貞、両雄が西東でそれぞれ”表”舞台に立つ!その舞台裏を支えた岩松経家・吉致兄弟の西東での活躍が目立つ。高氏改名、これが天皇の最大の敬意と恩賞。印象的なのが守時。「死に場所」に応える高時、涙する守時。最期に口に咥えていたのが、登子からの文。グッとくるなぁ、この場面。一方、護良親王vs.高氏の火種の原因が、朝幕共通の諸悪の根源を暗喩。民を見ない政。故に、親房の客観的論旨が光る。それにしても、正成のアクの無さを描写した件が気になる。日和見武将が蔓延る乱世、故に諸刃の剣。2022/02/06
優希
69
遂に鎌倉幕府が滅亡します。新田義貞による出来事であることを今巻で知りました。幕を閉じた鎌倉幕府から建武の親政が起きるのですが、武士たちの不満は尽きないようです。高氏は尊氏と名を改め、今後の動きが気になりますね。2019/01/17
再び読書
57
とうとう討幕が成就した巻、今までの巻に比べて道誉が全くといって登場しない巻である。その分鎌倉幕府の滅亡がメインで、新田義貞の人の好さとゆうか凡庸さと、高氏の深慮遠謀が対比される。千寿王という寄生虫とは言い過ぎだが、自分の功が薄れる要素を疑わずに信じる人の好さに、のちの歴史を知っている読者は哀れみを覚える。相変わらず空気の読めない護良親王の強引さもまた哀れに感じる。2016/01/04
けろりん
50
京と上野国、足利高氏と新田義貞が手を携えて挙げた火は、都と鎌倉を焼き尽くす劫火となり、『うつつなきひと』九代執権北条高時は紅蓮の炎の中最期を迎える。累々たる屍、池を為す血潮に浮かぶ蓮華の如き女人たちの肢体、焦土の上に鎌倉幕府は滅亡し、建武の新政は呱々の声をあげる。戦乱に疲弊した庶民、命を的に戦功を競った武士たちを置き去りにして且ての栄耀栄華を追い求める雲上人のまつりごとは、新たな不満と世の乱れを呼ぶ。無残な戦の陰で喪われる無辜の命や、傾いた主家に殉じる侍の滅私の心を描く吉川氏の情趣溢れる筆致に魅了された。2019/08/09
金吾
37
○あっという間に北条氏が滅びてしまいます。前巻に引き続き時流を感じさせてくれます。その後の建武の親政を見ると公家のように長らく政治から離れた集団が政治を握る恐ろしさと目的達成後の維持の難しさを感じます。2021/01/19