内容説明
この国が簡単に「国家主義への誘惑」に吸い込まれ,「近隣アジアとの次元の低い確執」に追い込まれる理由は何なのか.ナショナリズムに新自由主義が相乗りした「一億総保守化」状態に陥った日本において,大震災以後の不安と日米同盟の固定観念に抗いながら,戦後民主主義を再考し,「リベラル」の本質的価値を論じる.『世界』好評連載の第四弾.
目次
はじめに┴1 リベラルの危機と再生┴リベラルの再生はなるか 真の変革への道筋┴アベノミクスの本質と日本のイスラエル化 リベラルの危機と再生(その2)┴リベラル再生の主体は誰か リベラルの危機と再生(その3)┴思考停止の夏と希望への視界 リベラルの危機と再生(その4)┴リベラルなエネルギー戦略の模索 リベラルの危機と再生(その5)┴2 対談編┴山口二郎×寺島実郎┴お任せ主義を超えて、いま「リベラル」を獲得し直す┴中島岳志×寺島実郎┴二一世紀世界における保守の条件とは 立ち位置の確認のために┴3 大震災復興へ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
breguet4194q
91
岩波書店の「世界」に掲載された2010年代の論考をまとめたもの。「リベラル」をテーマにして、多方面から日本のあるべき方向性が説かれています。(山口二郎氏、中島岳志氏との対談あり)また、東日本大震災を受けて、「核」の意義の両面(核兵器、核利用)を冷静に見つめつつ、世界における日本の立ち位置と、世界からどう日本は見られているのかを問い詰めています。著者の慧眼に脱帽するばかりです。2025/02/16
壱萬参仟縁
30
行き過ぎた平等主義を嘆き、経済至上主義と技能万能主義を否定(ⅶ頁)。 リベラルの語源はラテン語LIBER。何ものかに 制約されない意味(7頁)。 市井三郎を引いて不条理を制度的に減らすのが進歩(11頁)。日本の反原発運動の弱さは政策科学の議論になっていない点(15頁)。日米同盟を維持して脱原発可能か(74頁)。寺島先生は、原子力に依存しない社会を目指すことを前提とし、2030年に電力需要の17%前後を原子力で供給することを目標とする(76頁)。 2014/11/07
メタボン
11
☆☆☆★ 日本が真剣に考えなければならない課題~エネルギー問題特に原発のあり方、今後の日米安保条約の考え方、アジアや中東における日本の位置づけ、といったことを深く考える契機となる著作、相変わらず寺島氏の論述は骨太で深い。米国の見せる「抑圧的寛容」、団塊の世代は全共闘世代と言われながら社会参加した後は「表は左翼がかって赤く見えても一皮むけば真っ白」の赤いりんご、三島由紀夫が予見した経済性重視だけの抜け殻の日本人、といった内容が印象に残った。2015/01/08
あんさん
4
自分達の都合の良い方向からだけでない冷静な視点と、日本への強い愛情を感じた。「おわりに」より「物事の本質を考察するには「全体知」がいる。そのためには可能な限り世界の現場に立つフィールドワークと文献の幅と深さを探求する知的営為が不可欠である。」2014/10/18
食べた
4
世の中が右傾化していく中でリベラルを再生する必要があるとの危機意識に立ち、まず「近代を正視すること」を掲げてその方法を議論していく内容の書だが、論じられている分野が多岐に渡るために簡単な一言で表現することが出来ない。大まかに「安倍政権の批判」と「対米関係の再設計と「グローバリズムの中での公正な分配の実現」と「憲法9条」と「原子力の未来とエネルギー政策と震災復興の構想」と「代議制民主主義の鍛え直し」といった内容が主である。時代と向き合った思考の結晶といえる。現実に力を及ぼす知性とはこのようなものかと驚嘆した2014/03/25