内容説明
名探偵アティカス・ピュントのシリーズ最新作『カササギ殺人事件』の原稿を結末部分まで読み進めた編集者のわたしは激怒する。ミステリを読んでいて、こんなに腹立たしいことってある? いったい何が起きているの? 勤務先の《クローヴァーリーフ・ブックス》の上司に連絡がとれずに憤りを募らせるわたしを待っていたのは、予想もしない事態だった――。ミステリ界のトップ・ランナーが贈る、全ミステリファンへの最高のプレゼント。夢中になって読むこと間違いなし、これがミステリの面白さの原点!/解説=川出正樹
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
W-G
1432
面白かった。下巻からは現代編?現実編?に戻る。変にメタな方向にいかず、端正なミステリを一粒で二度おいしく楽しめる感が、むしろ新鮮。あえて比較するなら個人的には作中作の方が好み。謎解きの質もさることながら、単品でも真相にきちんと意外性があり、黄金時代の雰囲気というか、お上品な空気感に全く違和感がないのもすごい。対して現代編。こちらはしっかり結末が現代的というか、ドラマっぽくもあり、書き分けがしっかりしていて感心。また、アナグラムの謎に関しては、原文だとどうなるのか、調べるまではしないけど気になるところ。2018/11/04
starbro
1224
上下巻、750P弱、完読しました。下巻の登場人物が上巻と全たく異なり、こんな二重構造になっていると思いませんでした。ミステリファンを喜ばせる仕掛けも随所に見られ、アガサ・クリスティのオマージュだけではなく、ミステリの古典に対するリスペクトが感じられました。やはり4冠は伊達ではありませんでした。名探偵アティカス・ピュントシリーズ全九巻を読んで見たい。カササギ恐るべし!2018/12/19
ヴェネツィア
1096
上巻では作者の姦計にまんまとはまってしまった。下巻に入った途端、冷水を浴びせられることに。冷静に読んでいれば、変だとわかっただろうに。さて、本作の構成だが「カササギ殺人事件」を作中作としてその外枠に作者コンウェイをめぐるもう一つの事件が用意されていた。そして、この2つは全く別のものである。すなわち、この構成の技法は歌舞伎の「綯い交ぜ」(とりわけ四世鶴屋南北の劇において名高い)にほかならない。しかも、それがここでも見事に成功しているだろう。また、そうすることによって、両方がより劇的な効果を発揮するのである。2023/07/05
海猫
1069
下巻に入ると作品のパートが現代に一転。出版業界の裏側やゴシップネタが面白い。現代パートと作中作が影響しあってあとになるほど、求心力が出てくる。仕掛けとしてもミステリー小説としても高いレベルで結実していて、各種ランキングで評価されたのも納得がいく。ただ感心はできるんだけど、興奮できないのが寂しい。誰が犯人?みたいなことに興味が持てず、ダブル・フーダニットときても好みじゃない料理が重なってる感じ。これは単純に私がすっかりミステリー的なものに、鈍感になっちゃったからだと思う。それでもちゃんと楽しく読めたけどね。2018/12/26
Tetchy
1042
通常本書のように小説が現実を侵食していく、つまり虚構と現実の境が曖昧になっていく作品はホラーや幻想小説のようになるが、本書はミステリに徹している。作中作、本編どちらも結末が描かれ、そして腑に落ちる。これぞミステリの醍醐味だ。21世紀も20年が経っている中、こんなミステリマインドに溢れたど真ん中の本格ミステリ、いやそれらを土台にした新しい本格ミステリが読めること自体が幸せだ。歴史は繰り返す。もしかしたら21世紀は本格ミステリの黄金期が始まるのかもしれない。そんな楽しい予感さえも彷彿させる極上のミステリだ。2020/11/24