内容説明
著者畢生の連作シリーズ第二巻。傘寿の祝いの席で孫娘が弾くピアノが戦時の記憶を呼び覚ます表題作、凝縮された三つの掌篇から飄逸な性の光景がこぼれる「こえ」、老夫婦の哀歓が静かな絶頂に達する、川端賞受賞作「みのむし」、厠の妖怪赤手コが跋扈する現代の民話「でんせつ」など、たきぎが爆ぜる傍らでゆっくりと紡がれたような短篇群が、人生の無数の情景を照らしだす。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
shizuka
65
短編集なので休む前に少しずつ読めるのはとてもいいが、いざレビューを書こうとすると最初の方に読んだものを忘れてしまうという難点もある。『ぜにまくら』83歳のお祝いとしてある地方で行われている「金寿」。老人は小銭を枕の下に敷いて寝る。それを祝儀として他の者に配る。ある老爺中風で倒れ、本人意識ないまま金寿を祝われる。病院の小銭を配ることを妻は躊躇するが、その老爺の小銭はなぜか大人気。皆が口々に言うことは宝くじに当たるかも、競馬で当たるかも等。中風いわゆる「中る」、なるほどね。病人には失敬だが、とても人間らしい。2017/03/29
メタボン
39
☆☆☆☆ オチが上手いと唸らせる短編集。題名は同じだが違う曲に60年前の記憶が蘇る「ふなうた」、性の営み・トイレの個室で女の囁き声のように聞こえる・うつる幻聴電話「こえ」、淫猥な湯屋「あわたけ」、焚火の中に入れた生栗が縁となる「たきび」、赤手コが突っつく「でんせつ」、金癖を探る「てざわり」、老夫婦の朝の会話「ブレックファースト」、剣道のしくじりが人を殺す羽目になったかも「ひばしら」、八十三歳の金寿をめぐる小銭話「ぜにまくら」、妻の火傷「かお」、一人住まいの女の侘しさ「メダカ」、老婆の最期「みのむし」。2017/12/24
Shoko
31
「最初から、飼うならメダカだと、きめていたわけではなかった。」「メダカ」の書き出し。すっと物語の世界へ引き込まれて、意表をつくラストまで流れるようにその世界を揺蕩う。品良く美しい言葉によって紡がれる珠玉の大人の物語たち18編。「メダカ」の主人公が35歳と一番若い方で、他は50代から80代と晩節の主人公たちなのも特徴的。微笑ましかったり、艶っぽさ、切なさ、滑稽さ、郷愁その他がギュッと一冊に詰まっている。その名の通りモザイクのように、様々な表情が詰まった一冊。2020/01/18
コーデ21
22
『盆土産』で三浦氏の短篇の素晴らしさにノックアウト♡ 「短編集モザイク」シリーズ3冊を取り寄せ、まずは『ふなうた』を読了。短いページの中で紡がれる人間の営みのなんと愛おしいことか。どの作品もほのぼのとした余韻を感じて温かい読後感でした。「めだか」「かお」は雑誌『クロワッサン』に掲載した作品とか。うっすらと記憶にあるのでリアルタイムで読んだのかも^^ <金寿>(←83歳。初耳)を祝う習わしを描いた「ぜにまくら」が一番印象的でした。2022/06/23
かりあ
21
こんな、ものすごい短篇を、かつて読んだことがあっただろうか…。いや!ないっ!まったく偏りなく、どちらとも主張し過ぎず、欠落し過ぎもせず、文章50と物語50で、完璧完全なる100%の小説を築いているといっても言い過ぎではないだろう。解説は我が尊敬すべき荒川洋治さんで、二度うれし。Amazonでさえレビューが書かれてなく、知名度は低いかもしれないが、売れている作家が優れているとは決められない。小説は隠れたところに最高の作品があるのだと、改めて感じた。2010/08/22