内容説明
この地方で、かつて隆盛を極めたエアーズ家は、第二次世界大戦終了後まもない今日では斜陽を迎え、広壮なハンドレッズ領主館に逼塞していた。かねてからエアーズ家に憧憬を抱いていたファラデー医師は、ある日メイドの往診を頼まれたのを契機に、一家の知遇を得る。物腰優雅な老婦人、多感な青年であるその息子、そして令嬢のキャロラインと過ごす穏やかな時間。その一方で、館のあちらこちらで起こる異変が、少しずつ、彼らの心をむしばみつつあった……。悠揚迫らぬ筆致と周到な計算をもって描かれる、たくらみに満ちたウォーターズの傑作。ブッカー賞最終候補作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
55
「少し、不思議で怖く、でも哀しい本を再読しよう」その三冊目。百合描写と騙りの巧さが特徴的なサラ・ウォーターズ作品ですが、この本に関しては百合はありません・・・。まさか最初の語り部の「理想を押し付けるのは止めてほしい」が後の伏線となっていたのか?飼い犬ジップの仕出かしたことに目を背けるエアーズ家に違和感を覚えつつも本当に館には「何か」がいるのではないかという気になるのが不気味。個人的に家族を守るためとは言え、次第に心身ともに憔悴していきつつも誰にも理解されないロッドの姿が哀れでなりません。2015/08/23
yumiha
43
『殺しへのライン』(アンソニー・ホロヴィッツ)でホーソーンが読んでいたのが本書。気になっていたのを今ごろやっと手に入れた。これまでに読了したサラ・ウォーターズ作品5冊とは、雰囲気が違う。漂っていた百合色は影を潜め、ミステリー的要素も見えない。ただエアーズ領主館やその周りの景色の描写が丁寧で詳しいのは、やはりサラ・ウォーターズ作品だと思うし、本作は、かつての栄華と約30年後の現在の荒廃を読み取ることが読者の使命(?)だと思うので、実にピッタリの作品だと思う。また美人ではないけれど、率直なキャロラインがいい。2023/11/14
藤月はな(灯れ松明の火)
33
まるで熱々の高級なチョコレート・フォンデュをゆっくりと大切に食べるような気分になるような不思議で魅力的な本と出逢えた幸せを噛み締めています(感涙)没落した貴族。故人の思想や風格に縛られ、現実的ではないエアーズ家の家族。屋敷に潜む不気味な「何か」、それの脅威に脅える人物の葛藤、語り手の視点・・・・。全てが堪らなく、素晴らしいです。彼らの物語を見届けるべく、いざ、下巻へ。2011/02/28
しあん
22
読む前からアッシャー家の崩壊がちらついておりましたが、読み始めて思い出したのはダウントンアビーでした。あのドラマ好きだったなー。館で次々と起きる事件がエアーズ家の人々を追い詰め、目が離せません‼︎2019/08/17
星落秋風五丈原
21
原題の「The Little Stranger」は「小さなよそもの」という意味だが幼い頃母にこっそりこの屋敷に連れて来てもらったことがあったファラデー医師自身、成人したファラデー医師が館に来る原因となる事件を引き起こしたある人物、怪異現象が生じる中で姿を見せたある人物、或いは館を主体とすれば、そこに住まう人間の一人ひとりが皆「The Little Stranger」かもしれない。館を主体と考える、という発想自体現実的ではないが、作中の館はまるで主体性をもったかのように人間達を翻弄し揺るがぬ存在感を放。 2014/07/21
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