内容説明
王侯貴族から肖像画の注文が次から次へと舞い込み、画家として最盛期を迎えたゴヤ。人物の両手の指を全部描く場合は、全身像よりも値段を高くするなど、したたかに上流社会へと駆け上がっていく。そんな彼を、瀕死の大病が襲う。18世紀末、祖国スペイン王政に危機が迫り、隣国フランスからは近代の足音が――。ゴヤが遺した数々の絵画・版画作品と共に、波乱の人生を追う傑作評伝、第2巻。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
92
ゴヤの生涯のうち40歳から56歳頃までが第Ⅱ巻である。ゴヤにとっては貧乏な絵描きから宮廷画家となり、そして這い上がって来たところで聾となる。47歳、働き盛りの時にである。しかし、1797年「アルバ公爵夫人像」を完成させる。主席宮廷画家となっても版画集「気まぐれ」を発売し、1800年「カルロス四世家族図」が数少ない宮廷の仕事のひとつであった。そしてフランスでは革命が起こり、その余波がスペインにも及ぶことになる。スペインの激動の政治、社会とゴヤの成り上がり人生が相まって、ゴヤの描く絵画の解説も詳しい良書です。2024/10/14
A.T
24
イタリアを訪れたのち一時行方知れずとなっていたゴヤの快進撃が始まる。1775年 妻の兄で宮廷画家のバイユーの手引きでマドリードへ戻り、王立タピストリの下絵描きの定職を得る。1786年王のカルロス3世のお付き絵師、1789年についに念願の宮廷画家になる…という一方でスペイン王室の凋落が始まる。なぜか。まさにその1789年は隣国フランスでヨーロッパ貴族社会の頂点にあったブルボン王室が革命により追放されたからである。スペイン王室はその頃ブルボン家筋であったから、影響必至。歴史小説を読む興奮で2巻目が終了。2018/04/15
まると
22
いかに巨匠とはいえ、堀田さんがなぜゴヤに着目したのか、疑問が解けてきた。宮廷画家に登りつめたゴヤを病魔が襲い、聴覚を奪う。同じ頃、フランス革命の余波がスペインに動乱をもたらす。腐臭を放つカルロス四世家族図の背後に、不吉な13人を忌避する口実でうっすらと描かれた自画像。この頃から、画中を統べるのはゴヤ自身となる。著者は時の権力に迎合せず、世の現実を捉え出した絵に近代を読み取る。そして、絵を細部まで凝視し、ゴヤの胸中や隠された意図を読み解いていく。ミステリーを読まされているようで、ページを繰る手が止まらない。2021/01/23
かふ
21
スペインの主席宮廷画家として頂点を極めたゴヤだが王侯貴族の闇の部分も知ることになる。フーコのベラスケスの絵で有名な幼女マルガリータ的な家族絵をゴヤも描いている。しかし『カルロス4世の家族』は、ベラスケスと同じ構図ながら幼女マルガリータの可愛らしさは王妃マリア・ルイサの中年の苦味きった顔になる。さらにマリアの愛人ゴドイのイジメを受けていた息子王子フェルナンドの手を繋いでいるのだが、その嫌々そうな顔。13人という不吉な数の家族にゴヤはベラスケスと同じ位置で筆を取る(14番目の人として)2021/08/02
風に吹かれて
20
音を聴くことができないということは、どういうことなのだろう。経験のない私には想像もできないことだけど、人生の途中から聴くことができない=人生の途中までは聴くことができた、ということは、ベートーベンの場合は、より深く音を聴くことができた、ということだったが、ゴヤの場合は、より深く、多くの人には見えないものまで見ることができた、ということだったようだ。自分に見えたように描き綺麗ごとの肖像画を描くことがなかったゴヤ。音がない分、物事の真相まで見えたゴヤ。絵師を脱し、芸術家が誕生した。2018/10/02