内容説明
戦争で荒廃したスペインでは聖職者を除く文化人の大半が弾圧や迫害の対象となり、友人が次々に投獄されていく。1815年、ゴヤも『裸のマハ』が破廉恥で公序良俗を侵害する作品と、異端審問所に召喚され――。妻の死後、40歳以上も若い女性と同棲し、晩年に単身フランスへ渡り、「おれはまだまだ学ぶぞ」と描き続けたゴヤの最期は? 彼の生涯を通して近代ヨーロッパの変遷を追う傑作評伝、完結編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
88
プラド美術館で「フェルナンド七世像」を見た。そして「わが子を喰らうサトウルヌス」をはじめとする「黒い絵」も見た。しかし、生涯2000点もの作品を残し、80歳にもなりボルドーへ亡命し、尚「おれはまだ学ぶぞ」とデッサンに詞書したゴヤの絶筆「ボルドーのミルク売り娘」の絵の前で感慨に耽ることとなった。著者はこの長い評伝を終わらせるに当たりゲーテの言葉を引用して締めくくる。「永遠にして女性的なるもの、われらを引きて昇らしむ」まことに見事な幕の引き方である。橋本治の「ひらがな日本美術」と語り口が似ていると感じた。2024/10/30
A.T
22
19世紀、想像も絶する悲劇がスペインを覆う。ゲリラ戦争、異端審問、イエズス会の無知蒙昧、絶対王政、密告、残虐な処刑の暗黒の時代。その中であの「黒い絵」が誰にも見られず知られずに描き上げられていったこと。ゴヤ74〜75歳。宮廷画家でありながら、組織人間ではなかったたくましさ。2011年にこれらの絵画が上野に集結していたというのに見逃した間抜けさに悔やみきれない。2018/05/17
ヴェネツィア
21
『ゴヤ』全4巻を読了。 1746年にサラゴーサ近郊のフエンデトードスに生まれたゴヤは18世紀にその前半生を生き、そして1828年にボルドーで生を閉じた。この時、世はもはやロマン主義の時代を迎えていた。 絵師に過ぎなかったゴヤは、まさしく一代の画業によって芸術家になったのである。音楽の世界では、24年後に生れたベートーヴェンもまたそうであったように。 堀田善衛は末尾を、マヌエル・マチャードの詩で閉じるが、この大作に相応しい感動的なエンディングだ。2012/01/08
かふ
19
ゴヤはスペイン1の宮廷画家であったけど耳が聞こえなくなるとコミュニケーションをするためにノートにデッサンするようになった。それが発展して戦禍版画集などを出版するようになる。宮廷画家からジャーナリスト・ゴヤの誕生。版画集はそれほど売れなかったが、ゴヤのスタイルとして定着していった。「ナンセンス画」集(タイトルは違うが)はシュールな作風だったり漫画的だったり、ちょっと北斎にも似ている。その延長でゴヤの怪物が生まれでてくるようになるのだが。理性が通用しなくなった社会での強欲さなのかな。2021/09/15
まると
19
長かったが、ようやく読了。版画集「妄=ナンセンス」や自宅の壁に描いた「黒い絵」シリーズも、狂人が描いたようで一見して理解不能なのだが、素人目にもわかるように解釈を示してくれます。全巻を通して、絵の見方だけでなく、ヨーロッパ近代の黎明期の混乱ぶりを、同時代人のような感覚でたどらせてくれて、とても勉強になった。絵画やキリスト教、ヨーロッパ史にも通じ、大変な教養を持ち合わせていなければ書くことのできない、とてつもない評伝だと思います。いつかプラド美術館で本物のゴヤの絵を見てみたいという気持ちが一層強まりました。2021/02/07