内容説明
近代日本で都市や自然を写し取った江戸泥絵、横浜写真、雑誌メディア、芸術写真を素材にして、場所を描く視覚表象=トポグラフィが流通したことで人々は環境をどう意味づけ、消費したのかを解明する。近代期の絵画、写真や雑誌などによって編成されたイメージ群が、いまなお私たちのものの見方を規定していることをあぶり出す。
目次
序章 トポグラフィと視覚文化
1 視覚文化論の射程
2 本書の構成
第1章 トポグラフィとしての名所絵――江戸泥絵における都市の表象
1 泥絵の研究史
2 名所絵というメディア
3 泥絵の形式面
4 見晴らしと見通し
5 流通する都市表象
第2章 観光・写真・ピクチャレスク――横浜写真における自然景観の表象
1 横浜写真小史
2 科学のまなざし、自然のスペクタクル
3 ピクチャレスクという規範
4 写真・観光・博覧会
第3章 伝統の地政学――世紀転換期のマスメディアにおける京都の表象
1 「太陽」と地理学的想像力
2 消費される風景
3 過去に定位される都市
4 伝統の地政学
第4章 郷愁のトポグラフィ――一九一〇年代の芸術写真における山村風景の表象
1 世紀転換期における芸術写真運動
2 可視化される国土
3 写生と風景
4 ピクトリアリズムと〈表現〉の神話
5 ノスタルジアのメカニズム
終章 風景からトポグラフィへ
1 風景と文化概念の変容
2 トポグラフィの視覚文化論に向けて
あとがき
索引
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いなり
1
特定の場所の名が知られるためには、なんらかのメディアが必要だ。小さな共同体では、口承で知られるが、大きな共同体(外国)ではマスメディアを必要とする。歌と違い視覚イメージは、実際の場所の同一性を保証するに足るだけのモチーフを揃える必要がある。引用を重ねる度にモチーフは整理され、ある一定の組み合わせになる。これが名所の定型化。引用と再生産の連続の果てに名所が成立していく。 横浜写真は、西洋のものの見方で世界を分類し、可視化する試みの一環の一つとして考えられる。2020/10/18
秋色の服(旧カットマン)
1
Fベアトの写真の流れで、この本にたどり着いてしまったのだが。いわゆる『横浜写真』のロマンティシズムを物の見事に破壊してくれる。その論証は見事で、すっきりする。アーネスト・サトウですら「ピクチャレスク」という語を使い、日本の風景を論じていたなんて。諸研究の文脈の中で論じられるので知恵熱出そうな所はあるが、知的好奇心が刺激される読書体験が得られることは確か。2016/12/19
Meroe
1
1浮世絵と同時代にそれとは別の需要者をもち別の江戸の姿を写した江戸泥絵、2ピクチャレスクの美学に従った「異国」表象である横浜写真、3京都=伝統・平安文化の末裔という言説とマスメディア、4アノニマスでノスタルジックな山村風景を写した大正期の芸術写真。視覚文化論という枠組みを使うことで、美術史からこぼれてきたものを描く。誰がそれを見ていたのか、という視点が大事。2012/01/21
ik
1
トポグラフィーに関する4つの論考から視覚文化という枠組みの有効性を解く イコノロジーよりも作品の優劣を考えずに広い視野がもてることは非常に有益なことである反面何を扱うか、何故それを扱うかがより一層問われる印象 普段あまり関わりのない分野やテーマの論考に触れられて非常に面白かった2011/09/27
ジェニー
0
風景写真から、土地へのまなざしを解読する。 サイードは必読だと思った。これは再読しよう。2025/05/09