内容説明
出産のために離れて暮らす母親のことを想う5歳の女の子の素敵なクリスマスを描いた「サンタ・エクスプレス」ほか、<ひとの“想い”を信じていなければ小説は書けない気がする>という著者が、普通の人々の小さくて大きな世界を季節ごとに描き出す短篇集「季節風」シリーズの冬篇。寒い季節を暖かくしてくれる、冬の物語12篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
192
シーズンだし、ということで読んでみた。うーん、大好きだったんだけどな、重松さん。とくに「ビタミンF」を読んだころは。最近ではもう、あーこういう作風だよな、重松さんだしな、という感じ。「バレンタイン」の話しなどはうっとうしすぎ。こんな親子がいたら、気持ち悪い。とはいえ、やっぱり年老いた母を地方都市に置いて東京暮らしをしている「ネコはコタツで」とか大学時代の別れを描いた「コーヒーもう一杯」なんかは、自分の体験と照らし合わせて、グッときてしまうわけで。これからも機会あれば読んでしまうんだろうな。2015/12/14
うりぼう
125
冬って、ホントいろいろなんだ。クリスマス、受験、星座、焼き芋、おせち、夜回り、バレンタイン、雪、コタツ、節分、ミカン、ミル。春を待つ季節、それは、夜明けのとき。何かが終わり、一歩を踏み出す刹那。そんなときは、ふと後を振り返り、風を感じる。「かまくら」を想い、「マンデリン」が香り立ち、「こだま」が振るえ、「こけし」を落とす。「ぬるい茶」が合い、「ぶち」喜び、「義理」を貰い、「ベンチ」に眠る。「濁点」が大事で、「栗」がなく、「相棒」と呼ばれ、「鬼4匹」揃い踏み。誰の心にもカオルのおじさんが居て、明日を迎える。2010/12/22
ふじさん
102
「ひとの想いを信じなければ、小説は書けない気がする」という著者が描く、寒い冬の季節を暖かくしてくれる短編集。懐かしい小中学校の時代、高校入試、大学受験、浪人、部活動の辛い思い出、就職、結婚、辛さくも長く充実した仕事三昧の人生、息子の自立・結婚、孫の誕生、両親との別れ、親しい友人との悲しい別れ等、自分の人生と重なる部分が多く、読んでいて心に染み入る内容が多かった。北海道の冬は辛く厳しいが、それだけ他では味わえない人生がある。ユーモアを交えながらも語られるの個々の話は、共感できると共に何か懐かしさを感じた。2022/12/08
じいじ
98
また、重松節にほっこりと浸りたくなった。この四部作『季節風』春・夏・秋・冬のうちから、スタートは「冬」にする。四季の中で、重松さんが最も好きなのは「冬」だそうだ。私も学生時代はやっぱり冬でした。当時凝っていたスキーが存分にできるから…。12の短篇のうちで、つぎの2篇がお気に入り。コーヒー豆を吟味し、一回分をミルで挽いて、カップはその日の気分で…、コーヒーに拘っていた頃を思い出させる【コーヒーもう一杯】。寒い冬も去って、まもなく温かい春が来るよ、というテーマの5話【一陽来復】。年が明けたら「春」を読もう。2022/11/24
masa
87
著者の作品を読むのは久々だった。文章が美しいとか仕掛けが巧いとかではない。ただ、とにかく唯一無二にあたたかい。それも遠赤外線的であざとさのないぬくもりなのだ。まるで北風と力比べする太陽。著者は容赦ない孤独を知っていて、包み隠さない本当の情けなさみたいなものまで赤裸々に描くから、どんどん心が脱がされる。どうしてみんな簡単にできることが自分にはできないのだろうと、漫画の主人公のように正しい行動が取れないのだろうと、自身に失望し真剣に悩んだ日々を懐かしく思い出す。そうだ、僕はこんな物語を書ける大人に憧れたんだ。2019/12/08