内容説明
メディチ家の恩顧のもと、祭りに賑い、楽しげなはずむような気分に覆われた花の盛りのフィオレンツァ。「私」と幼なじみのサンドロ(のちのボッティチェルリ)は、この日々が過ぎゆく人生の春であることに、まだ気が付いていなかった――壮大にして流麗な歴史絵巻。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
k5
70
フィレンツェ憧れシリーズ。ボッティチェルリを主人公に、幼なじみの古典学者を語り手にした歴史小説なのですが、今のところ芸術家よりも、コシモやロレンツォのメディチ家の方が魅力的です。ロンドン、ブリュージュ視点の財務悪化やコシモの死で銀行業が衰退したあと、ロレンツォが強引に明礬の利権を確保するなど、経済史的な面も面白い。四巻本なのでこのあと雰囲気変わるかもですが、現時点ではキッチュさのない『へうげもの』という感じ。ちなみに1468年当時のフランス王はシャルルではなくてルイ11世なので若干まちがいも。2021/04/21
たかしくん。
32
この作品は日本人の書く海外の歴史小説なる珍しいジャンルだと思います。内容はボッティチェリの親友が語る、主人公とメディチ家を軸とした回想記。ルネサンス真っ盛りの「フィオレンツァ」、華やかな中にも陰が見え隠れする色調が、通奏低音またはアルペジオのように常に流れてます。そして、随所に現れる<神的なもの>のワード、たぶんこの作品の求めるものの一つかと思います。ふわっとした文章に見えて結構な重い内容で、まだまだ先は長そうですが、のんびりと読み続けます!2016/06/04
あきあかね
21
毎年聴きに行っている学習院大学での辻邦生作品の朗読会。今年は明日、『西行花伝』をテーマに開催される。昨年、一昨年は二回に分けて『春の戴冠』の朗読劇が演じられ、若者たちの真に迫る朗読に、ルネサンス期のイタリア、フィオレンツァへと誘われた。 画家サンドロ・ボッティチェルリの親友フェデリゴが、年老いた後、過ぎ去った過去を振り返る回想録という形式が取られる。読み始める前は、『春』や『ヴィーナスの誕生』などで知られるサンドロに多くの紙幅が割かれるかと思っていたが、「花の都」という呼び名に相応しい⇒2024/11/16
うた
14
春の盛りにあるフィオレンツァ。コシモからピエロを経て、ロレンツォの代へと移り行く花の都を古典学者のフェデリゴと画家のサンドロが歩いていく。商いが栄える都や女たちの賑やかな声、フェデリゴが会った様々な人々が現れては消えていき、一つの時代を内側から描いた見事な歴史小説となっている。2016/10/29
BIN
8
ボッティチェリの親友Pさんによる彼の回想録ではあるが、ルネサンス期のフィレンチェとメディチ家の盛衰を描いた作品になるのだろうと思われる。ボッティチェリはあだ名で作中ではサンドロと呼ばれる。花の都フィレンチェの華やかさとサンドロと語り手Pさんの仲の良さでほのぼのするものではあるが、著者のスタイルか哲学じみたた語り口です。2021/06/03