内容説明
三十年住んだ武蔵野の地を離れ、妻とふたりで都心へと居を移した「私」。ゆっくりと確実に変化していく日常と、家族の形。近づいてくる老いと沈殿していく疲れを自覚しながら、相変わらず取材旅行に駆けまわる毎日だ。そんなとき、古い友人の悪い報せが「私」を大きく揺るがせる……。『岳物語』から二十余年。たくさんの出会いと別れとを、静かなまなざしですくいとる椎名的私小説の集大成。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
taraimo
27
以前に読んだ『岳物語』の少年=息子さん、娘さんも独立し、それぞれの活躍が頼もしい。著者夫婦も互いに精神を病み、年を重ねた後半の旅の向き合い方で、自立した奥さんが高地に挑み気丈に、仕事柄の旅をさすらう著者の少し気弱な面が気になりました。晴天の洗濯作業に仕事からの解放感を得たり、他所の洗濯物が風に揺れる生活感ある風景が、多忙な著者の孤独感の裏返しのように思えて……離れて暮らす家族が水入らずで過ごす旅の様子はホッとします。豊富な人脈や経験で綴られる椎名さんの旅と、散歩のような私の旅とのスケールの違いに驚くばかり2020/11/22
miwmiw
12
中学時代から読んでた椎名さん、一時読まなくなってたけど、「大きな約束」が良くて、それ以前の話のこちらを読んでみました。武蔵野からの引越し話から。鬱の時にまたそれを思い返して書いていくという作業は、辛いんじゃないだろうかと、その真面目さが心配だったり。そんな中ほんの少しだけ希望を感じさせるとこもあり、一気に読めました。やっぱり椎名さんの文章いいなあ。後書きも良かったです。2014/08/16
小豆姫
11
子どもたちは成長しそれぞれに自分のことに忙しくて、時とともにばらばらに変わってく家族のかたち。みんなで賑やかに食卓を囲めるのなんて、すごく短いんだよなあっとしんみりしてしまった。心身ともに下り坂を実感したりもして。地球上をワイルドワイドに旅してきたアクティブな椎名さんですらそうなんだなあと。2021/10/09
sin
11
kindle版。30年ぐらい前、むさぼるように椎名誠の本を読み漁り、当然「岳物語、続岳」も読んだ。大好きな作家でその家族やお友達まで近くにいる人たちの様な錯覚を覚えていたほどだ。夫婦の関係や子育てもわが身や我が家ではなかなかできない事だけれど憧れでもあり理想だった。約30年ぶりに「岳物語3」を手に取り(それでも15年前出版だけど)久々のシーナたちへの懐かしさに涙が出そう。岳くんや娘さん(前話ではあえて登場なし)の成長と少し年取った感の椎名夫婦の日常。パタゴニアのチャンピオンベルト話は一気に30年前に戻った2016/12/27
スルメジャコフ
7
中学生の頃から親しんで来て、久しぶりの椎名誠。あの破天荒でノー天気なシーナさんが、老いて精神的に不安定になっているところなどを赤裸裸に書いている!大好きな親戚のオジさんと久しぶりに会ったら何だか様子が変わっていた・・・といったような衝撃。でも、そういう「老いて行く自分」をちゃんと受け止めて書けているところがいい。また、『岳物語』の頃とは変わったけど、しっかりと結びついている家族の姿が描かれているのもいい。読んでいて何だかしんみりとしてしまったけど、良作です。昔からのシーナさんファンにこそ読んで欲しい。2011/03/01




