内容説明
父がいた、母がいた、きょうだいがいた――。シーナ少年が海辺の町で過ごした黄金の日々。家族ほどはかなく脆く変動する「あつまり」はない――。海辺の町へと移り住み、大家族とともに過ごした幸福な日々は、「家のヒミツ」と背中合わせなのだった。若々しい母の面影、叔父との愉快な出来事、兄・姉・弟に対する複雑な思い、そして父との永遠の別れ…。戦後日本の風景を、感受性豊かな少年の成長を通して描く、豊饒な私小説世界。『岳物語』前史、謎多き大家族の物語。
目次
むじな月
長椅子事件
小さな山と浅い海
小学生もつらいよ
トロッコ大作戦
ドバドバソース
おっさんのタカラモノ
蟹をたべなさい
シャックリの大男
かいちゅうじるこ
家のヒミツ
大波小波
もうじき夏がくる
あとがき
文庫版のためのあとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
82
椎名さんの「エピソードゼロ」とも言える幼少期の私小説。当時の記憶を辿りながら書いている為か、「岳物語」のような生き生きとした描写には欠けるのは否めない。でも学芸会での活躍やトロッコ列車での冒険、父親が亡くなる前に市場で蟹を買って食べた話などシーナ少年の「黄金の日々」が綴られている。「家族全員で顔を合わせていられる時間はわずかなものだ。家族という基本はあたたかく強いつながりであるはずの集団は、実はあっけなくもろい記憶だけを残していくチームなのだ。」と言う彼の言葉には本当にそうだなぁと感じている。★★★+2020/06/26
ドナルド@灯れ松明の火
20
椎名誠の自叙伝とでもいうのか。小さい頃の出来事・思い出を淡々と描いている。椎名さんの幼少期の状況が手に取るようにわかる。岳物語の「誠」版かな。 お薦め2020/12/20
時代
13
椎名さんの家族の話。なんと幼少期の記憶。チチ、ジイジイときて、シーナ少年かぁ。非常に複雑な家庭の事情があったようだが、幼少の少年には分からないので語られない。訥々とじーんと来る感じでした△2020/05/27
Mingus
7
幼きシーナの回想録、岳物語のシーナ版なのだが、60年以上前の朧げな記憶をこうも鮮やかに描けるものかと舌を巻いてしまう。少年のシーナが裏山に行ったり海に行ったりするだけで、ファンとしてはむしろ当事者感覚に近い懐かしさすら覚えてしまう笑 胸を打たれたのは蟹を食べなさいの章で、学芸会でひょうきんな役を演じるぼくがみんなに面白がられる一方で、賑やかだった家族に差す翳りと、口数少ない父との交わした僅かな会話、言われるがままひたすら蟹を貪る純真無垢なぼくに、涙なしでは読めない。そして挿絵の沢野さんがいい味だしてます。2020/05/31
鰍メバル
6
シーナ少年がまだ今のシーナさんの片鱗を見せる少し前の幼少期からの自伝的私小説。5、6人の仲間と集まってちょっと危なっかしい遊びを見つけては楽しむその姿は、その後のシーナさんを彷彿させる。2021/01/27