内容説明
近代日本の「怪談」の先駆者としても再評価の高い作家水野葉舟は、柳田国男に佐々木喜善を引き合わせ『遠野物語』の成立に大きな役割を果たしただけでなく、『遠野物語』が上梓される以前に、みずからが佐々木喜善から直接に聞き取っていた遠野の物語を発表していた。本書は、水野葉舟が遺した「第二の遠野物語」ともいうべき怪談と、遠野にまつわる小説・随筆等31編を初めて集大成した。『遠野物語』成立に関わるこれらの重要な作品群は、遠野の民俗譚が水野葉舟や、佐々木喜善、柳田国男にとって、いかなる意味を持っていたかを明らかにする。
目次
北国の人
遠野へ
土淵村にての日記
帰途
怪夢
怪談
怪談会
テレパシー
月夜峠
狐に魅されし話の数々
犬についての談
踊るお化・上
遠野物語を読みて
夢の研究
取り交ぜて
夢と幽霊
「雨月物語」の背後にある幽暗の世界
「怪談」の心理状態
野尻抱影訳『レイモンド』序
光明へ進む可き一つの問題
「遠野物語」の思い出
著者等紹介
横山茂雄[ヨコヤマシゲオ]
1954年生れ。奈良女子大大学院助教授。専攻、英文学
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感想・レビュー
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HANA
29
遠野紀行と佐々木喜善の話を含む怪談が収録されている一冊。最近『遠野物語』を怪談の文脈から捉え直す傾向が見られるが、本書はその先鞭をつけた形になるのかな。怪談といっても最近捉え直されている日本の怪異ではなく、大正期に流行した心霊学という違いはあるのだけど。それが顕著なのは、後半の怪談とそれに関するエッセイ、心霊学の大家の名前が並んでいる。巻末の論文は佐々木喜善を従来の形とは違った形で捉え直したり、当時の怪談と心霊学の関係について詳しく記述されていたりで、『遠野物語』を読んだ人は必読の内容となっている。2013/04/24
misui
4
柳田國男に佐々木喜善を引き合わせたという水野葉舟の文集。小説や論考を通して見えてくるのは、柳田、佐々木、水野、あるいは周辺の人々それぞれの文脈の微妙なすれ違いで、それらを内包して広がりのある時代の背景は、現在の遠野物語のイメージに再考を促す。編者の横山茂雄氏による解題が素晴らしく勉強になります。2022/06/07
ルートビッチ先輩
0
『遠野物語』は語り手としての佐々木喜善、書き手としての柳田國男だけではなく、関係者としての水野葉舟という存在があった。彼の文章には『遠野物語』に関わるもの、佐々木喜善(あるいは小説家佐々木鏡石)に関わるもの、柳田國男に関わるものがあり、それを読むことによって各々の従来考えられていたような捉え方は改められる。『遠野物語』の背景には「怪異譚」、「心霊研究」の共有があった。2014/11/23
星のソムリエ
0
遠野物語といえば柳田國男の代名詞と思っていましたが、ここにはその前夜、柳田も別角度からの物語が見えてきそうです2012/02/05