内容説明
野心家で強引な内海も、苦しみの渦中にあった。ガンで余命半年と宣告されたのだ。内海とカスミは、事件の関係者を訪ね歩く。残された時間のない内海は、真相とも妄想ともつかぬ夢を見始める。そして二人は、カスミの故郷に辿れ着いた。真実という名のゴールを追い続ける人間の強さと輝きを描き切った最高傑作。
著者等紹介
桐野夏生[キリノナツオ]
昭和26(1951)年、金沢生れ。成蹊大学法学部卒。会社員を経て、平成5年、女探偵村野ミロが主人公の「顔に降りかかる雨」で第39回江戸川乱歩賞受賞。平成11年、「柔らかな頬」で直木賞、平成15年、「グロテスク」で泉鏡花文学賞、平成16年、「残虐記」で柴田錬三郎賞受賞。平成10年に日本推理作家協会賞を受賞した「OUT」で、平成16年エドガー賞(Mystery Writers of America主催)の候補となった
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
465
下巻はそれまでにあったサスペンス性は薄い。すなわち、カスミにあっても、有香の探索への情熱が惰性化するからである。もっとも、それは小説としてのマイナスではなく、むしろリアリティを高めていると言えるのだが。新たな登場人物の内海は、物語に死の影を色濃くさせるし、空虚感をいっそう醸成させもする。さらに、カスミはかつての想い人も、さらには家庭ばかりか故郷をも喪失してゆく。カスミは独りで寒風吹きすさぶ荒野を彷徨っていかなければならない。内海は死んでいったが、カスミに残された時間はあまりにも長い。2017/06/26
yoshida
224
死期が迫る内海を看護しつつ失踪した有香を探すカスミ。事件に係わりを持った様々な人々の想像が奔流のように溢れ、読者は呑み込まれていく。徐々に有香を探す意欲を失うカスミ。様々な事柄から解き放たれ自由になる人々。人の暮らし、営みには何が起こるか分からない。自身の選択の結果であれば、責任を追わねばならない。最終章を読み、カスミの罪の重さに慄然とする。救いのない物語ではある。しかし、それ故に人間の心が持つ真実を、リアルに描いているのではなかろうか。カスミのこれからの人生での漂泊を感じる。非常に圧倒された作品だった。2018/10/14
ehirano1
215
下巻はサスペンスとミステリー色が増し、哲学的な個所は随分減りましたが(始まった話を終わらせなければならないので仕方ないですね)、各々のモブキャラが語るシーンにより事件の真相に迫る形式はどこかのミステリーで読んだような気がしないでもないですが、著者独特の生々しさが際立っており、エンディングへ一気に突っ走ります。そして最後を語るモブキャラはなんと・・・・・読んでのお楽しみですネ。2018/03/17
Atsushi
161
下巻は怒涛の展開。不倫の代償として娘が失踪したカスミと余命半年を宣告された内海は、事件解決のため北海道を転々とする。しかし、結局娘は見つからない。二人が見た三つの夢。そのいずれかが真実だったというのか。あまりにも救いようがない。「自業自得」という言葉を改めて思い知らされた。第121回直木賞受賞作。2017/10/04
優希
133
まさかこういう結末になるとは思いもよりませんでした。何が夢で何が現実かわからない感覚に陥ります。余命わずかという苦しみの中にいる内海。それでもカスミと共に北海道へとたどり着きます。かつてカスミが捨てた故郷に。そこでは皆が真実を追い続けているように感じました。有香を探す旅はいつしか真実と対峙するための旅になっていたのですね。最後の有香の告白が辛い。徹底して救いがありませんが、引き込まれる物語であることは間違いありません。2017/03/23