内容説明
刑務所から出所したばかりの大男、へら鹿(ムース)マロイは、八年前に別れた恋人ヴェルマを探しに黒人街の酒場にやってきた。しかし、そこで激情に駆られ殺人を犯してしまう。偶然、現場に居合わせた私立探偵フィリップ・マーロウは、行方をくらましたマロイと女を探して紫煙たちこめる夜の酒場をさまよう。狂おしいほど一途な愛を待ち受ける哀しい結末とは?読書界に旋風を巻き起こした『ロング・グッドバイ』につづき、チャンドラーの代表作『さらば愛しき女よ』を村上春樹が新訳した話題作。
著者等紹介
チャンドラー,レイモンド[チャンドラー,レイモンド][Chandler,Raymond]
1888年シカゴ生まれ。7歳のころ両親が離婚し、母についてイギリスへと渡る。名門ダリッチ・カレッジに通うも卒業することなく中退。1912年アメリカへ戻り、いくつかの職業を経たのち、1933年にパルプ雑誌「ブラック・マスク」に寄稿した短篇「ゆすり屋は撃たない」で作家デビューを飾る。1939年には処女長篇『大いなる眠り』を発表。同書の主人公、私立探偵フィリップ・マーロウは、永遠のアイコンとなった。1953年に発表した『ロング・グッドバイ』(早川書房刊)で、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の最優秀長篇賞を受賞した。1959年没。享年70(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ペグ
81
何度目かの「さよなら〜」。題名、訳文共に清水俊二のほうが好みだ。けれど、「さらば 愛しき女よ」だと今の時代には大仰すぎるのかもしれない。それにしてもやはりチャンドラーの作品はとても色彩的で絵画的。着ているものの色合い、風合いで性格や生き様まで見えてくる。物語自体はスリリングでもないけれどこの独特な世界観はノスタルジーとともに胸に迫ってきて、今度はテリー・レノックスに逢おう。2018/11/04
まつうら
58
村上版のフィリップ・マーロウは、清水版よりも躍動感があると感じたので、タフなマーロウが見られるこの作品を手にとった。インディアンに打ちのめされ、麻薬でズタボロにされても立ち上がるマーロウは、この上なくタフだ。そんな男らしい村上版マーロウがとてもかっこいい。しかしタフなだけが男らしさではない。村上版マーロウの、アン・リオーダンに接する態度もまた男らしい。この作品で描かれるアンは、清水訳の小娘イメージとは違って、気の利いた会話をする大人だ。タフなだけでなく、大人の女性にきちんと対応できるマーロウに乾杯!!2022/12/21
キジネコ
52
己の欲に正直な人達が生き活きと描かれます。小さな海辺の町に君臨する闇王、財を餌に美しい女を繋ぎ留める老人、美貌と計略を武器に贅の頂を目指す女、愛に不器用な男が賭けた生涯は幸福だったか・・殆ど全てのキャラが自分に正直なのに一人マーローだけが諧謔の鎧を身にまとい痩せ騎士の、涙ぐましい我慢を通します。未だ若い探偵が耐え難い恐れに呑み込まれてもタフであろうと無理をします。何故の答えを見つける為にチャンドラーの文体流儀に倣い男たちはマーローに、女性の皆様は美しき悪女になって見てください。人の奥行にため息を誘う物語。2015/02/04
metoo
47
村上春樹の文章が好きなので、作者がチャンドラーなのか春樹なのか混乱する。本編より訳者あとがきを読んでニマニマした。翻訳するということは一語一語吟味し、文章を分解し組み立て直し置き換え直す。一仕事終えた訳者のあとがきを読むと私などがレビューなど書けるわけがなく、春樹氏の生き生きとした鮮やかな人物描写に魅了され洋画を一本観たような読後感で満たされる。2014/07/08
syota
35
本書最大の魅力は、ひたすら無鉄砲で元気な若き日のフィリップ・マーロウに会えること。ブラックコーヒーをがぶ飲みし、酒をあおってタバコを咥え、鉄砲玉のように突撃して…うん、これぞハードボイルド! ただ冷静に見ると、それぞれのエピソードが拡散気味でうまくつながらない部分がある。またあまりに都合が良すぎる箇所もあって、ストーリー展開という点では難ありなのだが、そんなことに目くじらを立てず、マーロウの大暴れを楽しむべき一冊。2022/12/09