内容説明
警察官を定年退職し、妻と共に四国遍路の旅に出た神場。旅先で知った少女誘拐事件は、16年前に自らが捜査にあたった事件に酷似していた。手掛かりのない捜査状況に悩む後輩に協力しながら、神場の胸には過去の事件への悔恨があった。場所を隔て、時を経て、世代をまたぎ、織り成される物語。事件の真相、そして明らかになる事実とは。安易なジャンル分けを許さない、芳醇たる味わいのミステリー。
著者等紹介
柚月裕子[ユズキユウコ]
1968年岩手県出身。2008年「臨床真理」で第七回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しデビュー。13年『検事の本懐』で第十五回大藪春彦賞を、16年『孤狼の血』で第六十九回日本推理作家協会賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
青乃108号
607
これはまたずっしりとした読後感の本。定年退職した元刑事が妻を伴いある贖罪の為にお遍路の旅に出る。道中のテレビで報道される少女誘拐事件。それは贖罪の原因となった十数年前の事件とあまりにも似ており…遍路の旅と捜査状況が交互に描かれダレるところが全くない。結末まで一気に読ませてしまう筆力にしびれる。登場人物もひとりひとり丁寧に描かれており織り成す人間ドラマが感動的である。柚月裕子の作品は外れがない。また読んでみよう。2022/11/02
bunmei
569
最近、事件が起きる度に、犯人に対する非難以上に、その責任追及として、メデイァが警察とか学校に矛先を向けることが多々ある。それにより犯人に対する憎悪感が薄められる場合もある。決して語られず、生活を投げ売ってまで、懸命に取り組む事件捜査に関わる警察官の苦悩や不条理さが描かれていることで、改めて、警察官の悲哀が窺えた一冊。また、刑事を定年退職した神場と妻が巡る、四国八十八カ所お遍路旅と同時進行で物語が展開していくので、ネットで、本に登場するお寺を検索しながら読み進めるのも、この本の楽しみ方だと思います。2019/06/25
あきら
409
柚月さんを初めて知った本。 時間の流れを上手く本に表現されていました。 主人公の過去、事件経過とつながり、お遍路と夫婦の関係、、、。読者を飽きさせない展開はさすがでした。 タイトルが個人的にはとても好きです。
イアン
378
★★★★★★★☆☆☆ 斬新なトリックやどんでん返しはないけど、お遍路を通じた人との出逢い、駐在所時代や後輩を失った時のエピソードなどが丁寧に描かれ、重厚な物語を創り上げている。「人生はお天気とおんなじ。ずっと晴れとっても、人生はようないんよ。日照りが続いたら干ばつになるんやし、雨が続いたら洪水になりよるけんね。晴れの日と雨の日が、おんなじくらいがちょうどええんよ」とは、道中で知り合った千羽鶴さんの言葉。そして『慈雨』というタイトル。神場も香代子も、緒方も幸知にも、幸せになって欲しいと願わずにはいられない。2020/05/01
三代目 びあだいまおう
376
私には後悔の思い出がない。恵まれた人生かもしれない。しかし、もし主人公の立場であったなら、私もきっと生涯重い荷を背負うのだろう。刑事を卒業した主人公は妻と共に四国お遍路の旅に。後悔の呪縛をいささかでも解けたらと。ニュースで流れる幼女凌辱殺人事件。手口はあまりにもあの事件に似ている!犯人は捕まえて牢獄のままのはず!同一犯なら、もしそうなら?あの時の彼は冤罪だったのか!不器用だが真摯な生き方を貫く、その上での消しがたい後悔。人生は分岐点の連続。後悔を上書きしたいなら今を確かに生きるのみ!情景豊かな良書‼️🙇2020/12/24