内容説明
思い出よ、という感情のふくらみを大切に夜の坂道のぼる
日々の労働と都市で生きる者の日常。他人からすればどうでもよいかもしれない、ただ、見過ごせないことやもの。
静かな内省を基底におきながら、希望と祈りが自然とわきあがる。
現代歌人協会賞を受賞した第一歌集、待望の新装版!
【収録歌より】
たんぽぽの河原を胸にうつしとりしずかなる夜の自室をひらく
口内炎は夜はなひらきはつあきの鏡のなかのくちびるめくる
少しひらきてポテトチップを食べている手の甲にやがて塩は乗りたり
湯船ふかくに身をしずめおりこのからだハバロフスクにゆくこともなし
わが胸に残りていたる幼稚園ながれいでたりろうそくの香に
【著者】
内山晶太
1977年、千葉県生まれ。1998年、第13回短歌現代新人賞。2012年、第一歌集『窓、その他』(六花書林)を刊行。翌年同歌集にて第57回現代歌人協会賞。「短歌人」編集委員。「外出」「pool」同人。現代歌人協会理事。
目次
目次
Ⅰ
たんぽぽ
首のちから
窓、その他
麒麟の画像
白夜
速度にすぎず
眩暈
ハバロフスク
髪飾り
砂の風葬
まなざし
はるなつあき
日記にしるす
ごちそうの夢
だれのためでもなくて
手袋
噴水
かたばみ
花模様
Ⅱ
コラール
夏はみな
グラジオラス
苺
小籠包
ひよこ鑑定士
リネン室
反芻
虚空に座る
割れもの
なっちゃんは今
錯誤
水際の胸
一万枚の窓
どくだみ
人体模型
毛布
電話ボックス
無辺
エラー
檻
泥
Ⅲ
かまきり
くりかえし
ひるがお
いちまいの光のようなもの
冬のこと
アパートのゼラニウムのベランダの降りそそぐ生活感のために
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
あや
22
短歌人編集委員の内山晶太さんの第一歌集の再販。初版の刊行は2012年。私がサッカー観戦に明け暮れていた時である。当時は短歌は読書はしても詠歌は中断していた。再販にあたってのあとがきがよい。コンセプトのない歌集にしたかったとのこと。『窓、その他』はコンセプトのない歌集にふさわしいタイトルと思う。 てのひらに貰いしお釣り冬の手にうつくしき菊咲きていたりき/みずからを遠ざかりたし 夜のふちの常磐線の窓の清冽/シートベルトをシューベルトと読み違いたり透きとおりたり冬の錯誤も 千葉県のご出身で勝手に親近感2024/09/19
qoop
9
都会で働く勤め人の日常の歌。疲弊した目に映る情景と響き合う情感をみずみずしさでもって書き綴る。諦観の奥から新鮮な驚きが飛び出し、ドライさに隠れたデリケートさが顔を出す。表題にある〈窓〉は、そうした内外を繋ぎ、覗かせるものか。/床に落としし桃のぬめりににんげんの毛髪つきて昼は過ぎたり/わが胸に残りていたり幼稚園ながれいでたりろうそくの香に/夏まひる見渡すかぎりの炎天にサラリーマンは帽子かぶらず/ジオラマのなかにちいさき遊園地未来永劫死亡事故無し/目に蓋のある人体のかなしさを乗せしみじみと終電者ゆく2023/02/13
のりたま
5
「通過電車の窓のはやさに人格のながれ溶けあうながき窓みゆ」私も雑踏の中で人格が溶けあう感覚を詠んだことがあるが、これはうまいとおもった。目としての窓、自我や思考が流れるイメージが一冊の中で何度も繰り返される。鼠の歌は「城の崎にて」を踏まえるか。「わが死後の空の青さを思いつつ誰かの死後の空しかしらず」子猫の死の連作として読むとまた別の趣がある。「目に蓋のある人体のかなしさを乗せしみじみと終電車ゆく」使うなとよく言われる「かなしさ」「しみじみ」という言葉を使っているからこそ心に響く。2024/09/08
mascuma
2
春の雨とすれるように降りつづくほのあかるさへ息をかけたり/カーテンはひかりの見本となりたれば近寄らず見つ昼のなかほど/思い出が油となりて流れだす夜を釣り人のごとく立ちおり/ジオラマのなかにちいさき遊園地未来永劫死亡事故無し/夏過ぎてなお夏の日を閉ざしおく虫籠のなかにある涅槃〔ニルヴァーナ〕/ぶらんこの鎖つめたくはりつめて冬の核心なり金属は/開かれし傘ことごとくはりつめて飯田橋陸橋を行き交う/目に蓋のある人体のかなしさを乗せしみじみと終電車ゆく2024/02/13
kentaro
1
⚫︎遮断機の警鐘鳴りていくつもの余韻はくらき海を見せたり⚫︎くびすじに触るる夜風を人としてすずしき肉をふかく憐れむ⚫︎わが死後の空の青さを思いつつ誰かの死後の空しかしらず⚫︎カーテンはひかりの見本となりたれば近寄らず見つ昼のなかほど2025/12/05
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