内容説明
秋の日のミルクスタンドに空瓶のひかりを立てて父みな帰る
【歌集より】
秋の日のミルクスタンドに空瓶のひかりを立てて父みな帰る
とうめいなかかとのかたち天空も公孫樹の黄(きい)を踏んでみたくて
風鈴を鳴らしつづける風鈴屋世界が海におおわれるまで
白の椅子プールサイドに残されて真冬すがしい骨となりゆく
革装の書物のように犀は来て「人間らしくいなさい」と言う
「夢といううつつがある」と梟の声する ほるへ るいす ぼるへす
【著者】
佐藤弓生
1964年、石川県生まれ。2001年、第47回角川短歌賞受賞。著書に歌集『眼鏡屋は夕ぐれのため』『薄い街』『モーヴ色のあめふる』、詩集『新集 月的現象』『アクリリックサマー』、掌編集『うたう百物語』、共編著『短歌タイムカプセル』などがある。歌人集団「かばん」会員。
目次
パパの手は煙となって
夜の鳥
あなたに似た人
会社の椿事
光が丘公園にて
ライカ―けさひらくまなこ
荻窪の西
Ⅱ
十三か月
月と塩
リルケルリ
犀の領域
カーレン・ブリクセンのおしえ
帽子がみっつ
生きもの図鑑
バビロン
あかりや
触れてくる鞠
セプテンバー・ソング
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
カフカ
54
とくべつ心にのこった歌。 「あたらしい寝巻ひんやりひきだしの森林めいた時間を帯びて」 「橙のひとつが空の青に触れやがてたわわに空を照らせり」 「風鈴を鳴らしつづける風鈴屋世界が海におおわれるまで」2023/11/01
有理数
18
「てのひらに卵をうけたところからひずみはじめる星の重力」「死後を愛されるわたしはこの夜も青い電気に乳を与える」――葛原妙子の大好きな言葉に「秀でた比喩とは、二つのものの生の相似を瞬間に掴む精神の早業である。」というものがある。佐藤弓生の歌は、歌の冒頭から踏み入れていくと、突如風景が変わる。卵をうけて――星の重力がひずみ、青い電気に――乳を与える。決して隣同士にいそうにない者同士が、圧縮された31文字の中で隣り合い、丸ごと幻想のイメージへ送り返されている。相似を掴み取る精神の早業そのもの。美しい歌集。2021/02/22
ふるい
10
"「夢といううつつがある」と梟の声する ほるへ るいす ぼるへす" がやはり最高みありますが、"でたらめな薔薇の園生に風切羽やすめてリルケ、リルケルリ、ルリ" も、とても好きです。あとがきに、いやしの本棚さんのお名前が…!私も、いやしの本棚さんのツイートがきっかけで佐藤弓生さんの作品と出会えたのでした。2021/01/30
あや
9
初版の解説が井辻朱美さんと知る。なるほどお二人の短歌は似ている気がする。2021/02/14
qoop
4
ビジュアルを想起しやすい日常風景からマクロ/ミクロの世界へと瞬間移動する。三十一文字で行われるハイスピードの転換。間の繋ぎをどう処理するかが肝だが、本書で印象的な歌はどれも、想像が追いつくか追いつかないかのギリギリで跳躍して見せる。/てのひらに卵をうけたところからひずみはじめる星の重力/眼球を圧さんとばかりに蒼穹がふくらんできて夏はおそろし/宇宙塵うっすらふりつもるけはいレポート用紙の緑の罫に/ほろほろと燃える船から人が落ち人が落ちああこれは映画だ/暑い暑い暑い正午の浄智寺を猫のかたちに縞はあゆめり2021/01/01