内容説明
軍神と崇(あが)められる楠木正成を父に持つ正行は、戦なき世を求めて、北朝に降(くだ)る決意を固める。それは、楠木家こそ挽回の鍵だと頼みにしている南朝を滅亡に向かわせることに他ならないのだが……。朝日新聞連載の歴史巨編、待望の単行本化!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
W-G
564
南北朝の結末を知っているだけに、なんとなく『茜唄』のような展開かなと予想。主人公正行の人物像が平知盛よりももう少しだけ陽性なものとなっており、周囲の仲間も多く、想像よりもきちんと違いが出せている。確実に面白いだろうという予感は、確信に近いレベルであるものの、上巻読む限りはもう少しコンパクトにできたよね?という箇所も目につく。連載形式でやると仕方ない部分もあるかもしれないが、逆にこれで残りは下巻400頁しかないなら、尺が足りなくないかと不安。個々の戦はあまり深掘りされないか?このまますぐに下巻へ。2025/05/10
starbro
229
今村 翔吾は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。楠木正成は、知っていますが、その長男正行の物語は初読です。ハードボイルトな感じの歴史小説、上巻は一気読み、続いて下巻へ。トータルの感想は、下巻読了後に。 https://book.asahi.com/article/157387872025/05/07
旅するランナー
206
楠木正成の息子、多聞丸(楠正行)の物語。軍神と崇められる父正成の真実を語る前半。正行の決断に向かって楠木家として準備を進める後半。味方も敵方もキャラがたっていて、物語にグイグイ引き込まれます。それぞれの思いが交差していくであろう下巻が楽しみ。2025/05/17
パトラッシュ
197
英傑の息子とは何と重い宿命か。楠木正成の後を継いでほしいと周囲は期待するが、長男の正行は父は無駄死にではとの疑いが拭えない。忠義や名誉のためと称して命を使い捨てる政治に対し、尽くすだけでよいと割り切れないのだ。一方で足利方の敵将高師直は戦争を酒や女と同じに楽しみ、悩みを知らぬ分だけ無類の強さを誇る。南北朝の和解を模索する正行だが、師直の策謀から南朝方の女官弁尚侍と出会い運命が変わっていく。後村上帝暗殺の危機を救ってほしいとの弁内侍の求めに、長い雌伏から起つ正行は正義を求める若き知識人の輝きを放つ。(続く)2025/05/03
hiace9000
153
今村単品作では最長編の上下巻。波瀾に富む展開と巧みなコマ&カット割りで映像を読ませるが如き既出の作品群とは一転、上巻は実に細やかで丹念に人と史実の遷を描いていく。緩急自在の「急」のみならず「緩」の静謐な行間からも滲み出る気迫。それは今作に魂魄を留めんとする渾身の思いが筆を執らせたゆえか。今村筆の「父子描き」に、また信と義の狭間で揺れるも知と勇で難局に怯まず挑む武らの「気概」には、幾度も胸打たれる。“青葉茂れる桜井の”で始まる「大楠公」、英傑の子たらんことを宿命づけられた正行の真意と執った行動とは!下巻へ。2025/04/25