内容説明
ピエロの父、曲芸師の母、踊り子のわたし。祖国を逃れ放浪生活を送る、サーカス一家末娘の無垢の物語。39歳で非業の死を遂げた伝説の作家による自伝的傑作。シャミッソー賞・ベルリン芸術賞受賞。
「地獄は天国の裏にある。」
祖国ルーマニアの圧政を逃れ、サーカス団を転々としながら放浪生活を送る、一家の末っ子であるわたし。ピエロの父さんに叩かれながら、曲芸師の母さんが演技中に転落死してしまうのではないかといつも心配している。そんな時に姉さんが話してくれるのが、「おかゆのなかで煮えている子ども」のメルヒェン。やがて優しいシュナイダーおじさんがやってきて、わたしと姉さんは山奥の施設へと連れて行かれるのだったが――。
世界16カ国で翻訳、伝説の作家が唯一残した自伝的傑作が、ついに邦訳!
ドイツ文学史上最も強烈な個性。ーー南ドイツ新聞
まさに綱渡り芸を、息をのんで下から見守っているかのよう。ーーペーター・ビクセル
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
88
「父さんの母語は、ピーマンと一緒にクリームで煮たベーコンみたいに響く」。幼少時、独裁政権から逃れたルーマニア出身作家の自伝的小説。題名からして独特な響きがある。可笑しみと残忍さが混ざり合う寓話的な味わい。本篇でも童心のような語りの妙味ある言葉遣いに思わずくすぐられるが、それは大人の都合に振り回され、不安感に苛まれることから逃れるための叫びに見えて心を傷めた。年齢が上がるにつれ、彼女が受ける非道さが風刺を越えて現実の度合いが強まる。苛酷さから守った民話は終わりを告げたのか。映画の場面と幸せの想いを重ねた。2024/11/25
藤月はな(灯れ松明の火)
75
故郷、ルーマニアを追われ、サーカスとして外国を流浪してきた少女の語る現実は『不思議の国のアリス』のように悪夢的だ。父による一方的な娘への近親相姦、男性に依存する伯母、娘の貞操を気に掛けながらも性的映像に娘を出演させる事に躊躇いはない母、満足な教育を受けていなかった事を知った時の自己弁護、神様を信じる一方でおかゆで煮られる子供たちに思いを馳せる。語られる事はちぐはぐだ。しかし、透徹とした語りがそれを奇妙な美しさにさせている。だが、それが崩れる箇所がある。それが「そして、子供は欲しくない」の羅列である。2025/04/14
こばまり
47
自伝的作品と知り、文学的な魅力の前に被虐待児としての著者の姿が目に浮かび、読んでいてつらい。自死の理由が生育歴に依るものと断言できないにしても。2025/12/17
Koichiro Minematsu
45
サーカス一家に生まれた娘は家族で祖国ルーマニアを離れ幼少期を過ごした自伝的小説。 表題の言葉が語られるとき、また、これでもかと表記される「ない」という表現が、全てが不安定で悲しい。 作者の結末が更に悲しさを増す。2025/12/27
ヘラジカ
45
無垢なる少女の生のままの文章が、猥雑でグロテスクな大人の世界を鮮烈に映し出す。幼さのヴェールを通して見る現実は、時に誇張され、時に薄靄に包まれて語られるが、だからこそ悍ましき世界の核を捉えた「真実」を表していると感じる。俳優である父親や曲芸師である母親、それを取り巻く欲を剥きだした人々のエピソードによって、強烈なイメージが頭に焼き付く衝撃作であった。この恐ろしい才能を持った作家が夭折しているのは残念でならない。2024/10/06




