内容説明
潰えれば死――。壮絶なる覚悟で決起した楠木一党は、正成の巧みな用兵により幕府の大軍を翻弄。ついには赤松円心、足利高氏(のち尊氏)らと京を奪還、後醍醐帝の建武新政は成就したが……。信念を貫くも苛酷な運命に誘われ死地へ赴かざるを得なかった、悲運の名将の峻烈な生を迫力の筆致で描く、北方「南北朝」感涙の最終章。
【目次】
第四章 遠き曙光
第五章 雷鳴
第六章 陰翳
第七章 光の匂い
第八章 茫漠
第九章 人の死すべき時
解説 細谷正充
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
46
信念を貫いたばかりに苛酷な運命と死への道を歩むしかなかったのでしょう。こう考えると正成は単なる悪ではなく、悲運の名将だったことが想像できます。その生き様の迫力を感じることができました。2022/07/17
Y2K☮
31
今作の解釈だと、足利直義が北条時行に敗れたのは尊氏が京を離れる口実を作るため。大塔宮が直義のいる鎌倉へ流罪になったのは帝の意志で、要は処断を期待してのこと。直義は本当に戦下手だと思うが一理ある。建武の新政は典型的な坊っちゃん体質。反吐が出るほど世間知らず。悪党・楠木正成は何を考えて彼らへ与したのか。なぜ赤松円心みたいに見切りを付けなかったのか。帝への忠節? あるいは。でも違う気がする。彼は武士が支配する世の中を厭い、同時に武家の棟梁としての尊氏を認めていた。その葛藤が率直に生き方に表れている。不器用な男。2022/07/02
どぶねずみ
25
鎌倉幕府討幕に貢献したために悪党として名高い楠木正成だが、北方健三さんはこの悪党をとても人情味ある人物像として書き上げているので、本当のところはどうなのかわからない。当時の幕府が腐っていたため、それを立て直そうと努めたところはとても彼が悪党だったとは思えない。それまで素晴らしい知力を戦に活かせていたものの、湊川の戦いでは負け戦になると知りながら戦わざるを得なかった生涯に後醍醐天皇を尊ぶ心を感じ、この人が国を動かしていたらその後にどんな幕府が誕生していたかと想像が途切れない。2023/10/07
フミ
19
皇国史観にとらわれない、北方先生、独特の「楠木正成」のお話。「悪党(武装した商工業・庶民階級)」の力で武士(武装農民)を倒したいと願う正成は、大塔宮・護良親王の人柄に希望を感じて、後醍醐天皇の笠置山挙兵に連動。下巻の前半から、戦いに次ぐ戦いで、各地で山岳戦を展開します。「なんとか武士の力を借りずに、六波羅を落としたい」と願うのですが、物語は歴史通りに進み…という感じです。六波羅が落ちる前の「こんな社会にしたい」「こんな風に勝てれば」という理想と、夢破れた後との感情の落差が大きいです。(コメントに続く)2022/10/05
惑星1号
13
楠木正成は鎌倉幕府の大軍10万を千早城に引き寄せて籠城戦を耐えぬき、後醍醐天皇による建武新政が成立した。しかし、天皇も、天皇を取り巻く公家たちも、天皇の下で武士をたばねる新田義貞もいずれも無能。倒幕後の現実を見て、正成は理想をあきらめた。河内の山中で、正成が弟の正季と静かに語り合う場面で物語は終わる。理想の実現がならなければあとは死ぬのみ。足利尊氏と戦って玉砕する湊川の戦いは描かれない。湊川において正成は、尊氏の大軍に16回の突撃を敢行したという。2025/09/22