内容説明
天文十八年、悪魔はフランシス・ザヴィエルに従う伊留満に化けて、日本にやって来た。マルコ・ポオロの旅行記とは様子が違うし、誘惑する相手も見当たらない。暇つぶしに園芸でもやろうと、畠に種を播いた。花をつけたその植物の名を問うた牛商人に悪魔は――。(煙草と悪魔) ご存知、短篇の名手として知られる芥川龍之介の、ミステリ作品集が登場!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みやび
22
短編の名手、芥川龍之介のミステリ風味の感じられる作品集。既読のものもいくつかあるけれど、それらも含めて読み応えがあって面白かった。「報恩記」と「藪の中」は読む度に印象が変わって深い思考に陥いる。どことなく滑稽で楽しめたのは「煙草と悪魔」と「西郷隆盛」。ミステリというより、読み物として物語世界に浸れるのが心地良い。芥川龍之介自身が怪談やシャーロック・ホームズなどが好きで、海外作品は原書で読んでいたというから、それだけで一気に親近感が湧いてくる。良質な読書時間だった。2023/01/27
たろさ
14
「探偵くらぶ」シリーズ2冊目だが先に発売された谷崎潤一郎『白昼鬼語』より探偵ものとしてのイメージは全体的に弱い。とはいえ既読も含め短い作品をわかりやすく美しい日本語で読める安心感はさすが。芥川作品では何度読んでも「藪の中」がダントツで好き。2021/11/05
kinshirinshi
13
短編の名手、芥川龍之介の作品集。「探偵くらぶ」のシリーズ名から推理ものを期待すると裏切られるが、怪談や奇譚、人の心の闇を描いた作品、読者に解釈を委ねる形の作品など、広義のミステリーに含まれる様々な作品が楽しめる。個人的には、散文的な男女の縁を意外な煌めきに昇華させた「お富の貞操」が一番好きだ。猫好きさんは必読かも😸😸😸。2022/02/06
Kotaro Nagai
10
芥川のミステリー風作品を集めた短編集。大正5年~15年の18編を収録。サスペンス、クライム、ホラーなどジャンルに重なる作品もあり改めて芥川のモダンな感覚に驚く。「影」(大正9年)「妖婆」(大正8年)など今でも十分通じる。特筆すべきは未完の「未定稿」(大正9年)。ここで新聞社に勤める素人探偵がホームズばりの観察で目の前の人物の状況を当てるシーンがある。思わず「おおっ」となる。警察から事件が持ち込まれいよいよというところで未完。全く惜しい。完成していれば本格ミステリーの嚆矢となったのではと感じる。2024/10/14
Inzaghico (Etsuko Oshita)
7
「疑惑」は、読者に解釈を委ねるところは「藪の中」と似ている。こちらは、岐阜の大垣に講演にやってきた倫理学の学者に、講演を聞いた聴衆のひとりが打ち明け話をする、というもの。この来客がしでかしたことの是非をそもそも問う資格がある人間がいるのか、と悩んでしまう。 「魔術」は谷崎の「ハッサン・カンの妖術」の設定が流用されている、とあとがきにあった。道理で既視感が(笑)。 2021/10/26