内容説明
ジョン・ソーンダイク博士は、20世紀初めに数多登場したシャーロック・ホームズのライヴァルたちの中でも最も人気を博した名探偵である。当時最新の科学知識を犯罪捜査に導入、顕微鏡をはじめ様々な実験器具を用いて証拠を調べ、事件の真相をあばいていく法医学者ソーンダイクの活躍は読者の喝采を浴びた。また短篇集『歌う骨』では、最初に犯人の視点から犯行を描き、次に探偵が手がかりを収集して謎を論理的に解き明かす過程を描く「倒叙ミステリ」形式を発明した。真相解明の推理のロジックに重きを置いた作風は、現在も高く評価されている。本全集は、ソーンダイク博士シリーズの中短篇42作を全3巻に集成、初出誌から挿絵や図版を収録し、完全新訳で贈る、探偵小説ファン待望の決定版全集である。
第1巻は、「アルミニウムの短剣」他の有名作を含む記念すべき第一短篇集『ジョン・ソーンダイクの事件記録』(1909)と、倒叙形式の発明でミステリ史における里程標的短篇集『歌う骨』(1912)に、作者自身による名探偵紹介「ソーンダイク博士をご紹介」を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
31
シャーロック・ホームズ最大のライバルと呼ばれるが、シャーロック・ホームズほど尊大でない医学博士にして法廷弁護士のジョン・ソーンダイク博士の活躍を描いた短編集第1巻。ソーンダイク博士が七つ道具として持ち歩く顕微鏡にリアル感を持たせるために、せっかく作者のフリーマンが作品用に作中に登場する砂や綿埃の顕微鏡写真を提供したのに、当時は写真技術がさほど精巧ではなくちゃんと映らず却下された。今回は写真も復活し、挿絵や見取り図も挿入された。2020/10/18
内島菫
23
顕微鏡や試薬、特殊な集塵機等を活用した科学的な捜査方法は、ソーンダイク博士の観察眼と先を読む論理的な思考法、そして現場に入る前の段階でなされている入念な下準備に裏打ちされている。その態度は犯罪捜査だけでなく、世界の秘密や謎を追究する科学者の在り方とも共通する。「前科者」の中でソーンダイク博士について「昆虫から象に至るまで動物園の生き物にはすべて分け隔てなく関心を示しながら、学童のように楽しげに生き生きと休日―と言ってよければ―を楽しんでいた」という描写があるのも頷ける。2020/11/07
ガットウ
20
★★★3.8点。図書館本 中学生の頃(35年前)に読んだ『世界の名探偵50人』に載っていたので、名前だけはずっと知っていたソーンダイク博士やっと読むことが出来ました。面白い、つまらない、と言うより宿題が一つ片付いた達成感という感じかな。2021/02/15
本木英朗
19
オースティン・フリーマンの〈ソーンダイク博士〉シリーズの、中短編を訳した〈ソーンダイク博士短篇全集〉1巻である。訳者はもちろん、渕上痩平さんだ。この作品では、全部で13編を収録している。どれもこれも本当に凄かった!の一言であろう。中でも「アルミニウムの短剣」と「オスカー・ブロドスキー事件」の2編は、大満足であった。いやー、流石ソーンダイク博士、そしてオースティン・フリーマンである。次は2巻目かなあ。ではでは、また。2020/10/09
Urmnaf
11
フリーマンのソーンダイク博士もの短編が全集に!第1巻は、第1短編集の「事件記録」と(多分最も有名な)「歌う骨」のセット版。倒叙ものの嚆矢であるとともに、科学的探偵法の先駆である、その魅力が存分に堪能できる一冊。証拠写真などの資料が初出時のまま掲載されているのも高ポイント。他の人が見逃すような些細な物証を収集しつつ、その物をどう読み解くかが肝要で、決して物証を盲信しないところが物語に深みを与える。ということで、出かけるときは緑色のケースを忘れずに。2020/10/12