内容説明
別の光と陰に彩られて表情を一変させた「源氏物語」。どういう訳か、とてもわかりやすく、すらすら読めました。驚きました。(町田康)
アジアでもなければヨーロッパでもない。これぞ「世界文学」の誕生(島内景二)
シャイニング・プリンス・ゲンジの四十を祝う盛大な儀式が開かれた頃、時代はゆっくりと移り変わりはじめる。
エンペラーは代替わりし、若き新人プリンセスが宮中に上がり、恋の物語は子や孫の世代に引きつがれる。
病に伏す者、世を去る者、残される者。絶頂から孤独へ、歓喜から悲嘆へ。やがてゲンジその人も旅立つときがくる――。
刊行されるや否や、源氏物語がたちまち世界的古典文学として知られるきっかけとなったアーサー・ウェイリー版源氏物語。
その名訳が伝えたのはいつの時代も変わらぬ私たちの、出会いと別れ、運命の切なさだった。
大好評のウェイリー版源氏物語、第3巻いよいよ刊行!
源氏物語が世界文学ではあるとはどういうことか。
谷崎源氏との対比で島内景二さんがエッセイを寄稿してくださいました。
和歌表記監修:藤井貞和
目次
〈目次〉
梅枝
藤裏葉
若菜 上
若菜 下
柏木
横笛
鈴虫
夕霧
御法
幻
(雲隠)
匂宮
紅梅
〈竹河〉
橋姫
椎本
総角
『源氏物語』は、常に新しい世界を先導する 島内景二
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
84
敢えて日に数十頁ずつ読んできた。主語述語はもちろんだが、誰の語り、あるいは誰についての語りなのか明確なので、古文に苦手でも内容が理解できる。といっても、登場人物群の相関関係は、我輩には入り組んでいるし、男女の縺れ合いも一方ならぬものがあって、各帖毎に冒頭に表示してある、相関図…系図は非常に参考になり、頼りっぱなしといってもいいほど。作者であろう紫式部は頭の中だけで錯綜する図を描けているのだろうが、それだけで感心してしまう自分が情けない。それより、数十年の物語なのに、筋に破綻がないらしいのが、凄い。2021/10/24
らぱん
52
「梅枝」から「総角」まで。源氏は39歳から51歳で晩年と言える。お隠れになった本文の無い「雲隠」はこの巻の中ほどにある。光る君を失った物語は子と孫の代に移っていくのだが、子である夕霧よりは本当は孫ではない薫の人物造形がやはり面白い。ウェイリー源氏は心情が明確なので今までとは違う人物像が浮かびあがったり、曖昧で自分には謎だった行動の真意を想像することが出来た。またこの巻でウェイリー源氏の新しさは、男でも女でもなく人間の物語になっていることだと感じた。38帖「鈴虫」が無いのは残念だった。↓2020/08/12
アキ
46
シャイニング・ゲンジ(光源氏)がプリンセス・アカシの前でサッカー(蹴鞠)をしてケーキ(菊餅)を食べる。フェスティバル(宮中行儀)にはリュート(琵琶)を奏で、ダンス(舞)を踊りワイン(酒)を酌み交わす。ヴィクトリア朝イギリスでの出来事のような、煌びやかな世界だが、ゲンジに忍び寄る死の影と一夫多妻によるムラサキの悲しみ。ムラサキを追うようにゲンジも亡く、ユウギリからカオルが中心に移る。「橋姫」から宇治十帖となり、源氏物語を否定するもうひとつの源氏物語が始まる。最終巻の4巻目(5月下旬発刊)が楽しみ。2019/04/15
みつ
24
この巻は「梅枝」から「総角」まで。光源氏の絶頂期から悩みの季節を経てその死、さらに宇治十帖まではいっていく。それまでの彼と彼を巡る女性の物語から、様々の男たちから見た恋模様が目立ってくる。柏木、夕霧、そして匂宮や薫。ここに登場する(本文のある)15帖中4帖が男の名になっているのに対し女の名がないのもその表れか。それだけに姫君の区別がつきにくく、各帖に附された系図は便利このうえない。系図からは次第に故人が増え、栄華の時代の変転を伝える。宇治十帖からは明らかに文体も異なり、心理の陰翳がより深まっていく。➡️2022/08/15
かふ
17
『雲隠』の帖が削除されていることについて、キリスト教文化と仏教文化の違いがあるのか?『雲隠』は題名だけで中身がなく、仏教思想では「空」なる思想を表しているといると思うのだが、それを削除しても物語的には変わらないとする合理主義なのか、考えると興味深い問題のような気がする。ただ紫式部も次の「匂宮」まで8年の空白があり、ウェイリーも4年の空白があったということなのだ。ということは『源氏物語』として最初に翻訳した時は光源氏の死を描かないでまだ作者の心に生きているとしたのかもしれない。2024/05/10