内容説明
「玉座に座った最初の近代人」と呼ばれる神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ二世の巧みな外交により、イェルサレムではキリスト教徒とイスラム教徒が共存することに。しかしその平和は長続きせず、現代では「聖人」と崇められるフランス王ルイ九世が率いた二度の遠征は惨憺たる結末を迎え……。「神が望んだ戦争」の真の勝者は誰なのか――。『十字軍物語3』を文庫第三巻、第四巻として分冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NICKNAME
62
ついに最終巻了読。第6次を率いたフリードリヒは置いておき、最後の7、8次十字軍を主導した敬虔なクリスチャンフランス王ルイ九世のずさんなリーダーシップと、その彼を聖人に仕立て上げた教会には呆れてしまう。またイスラム側も優れたスルタンを輩出し続けたアユーブ朝が終わり、奴隷上がりからなるマルメーク朝になってからのリーダーの劣化が酷かった。振り返ると当初はダメな集団と思えた第1次が色々な意味で最も立派であったと思う。つくづく思うがカトリック教会とは罪深いものである。あとこの時代のフランス国王達も・・・2019/03/24
ヨーイチ
59
これにて終了!勉強になったが何より面白かった!各巻とも軍事行動が詳細に語られているのが、この人の特徴だが、テーマから言ってこの点が強みになっている。作者の挙げるキーワード「カノッサ」「十字軍」「アヴィニョン」で政治と宗教の力関係の推移(ヨーロッパの)が分かる。十字軍運動の中核となった騎士団の叙述は作者の想いが噴火しそうな気配を秘めていて迫力満点。人間の営みの強さと歴史の無慈悲さが心を打つ。歴史書と小説の微妙なバランスとでも言おうか。続く2019/03/12
molysk
55
最終巻は、第六次十字軍から十字軍の終焉、後日談まで。衰退をたどる十字軍国家だが、キリスト教各派とイスラム教徒が共存共栄していた。異教徒との妥協を許さない聖職者の原理的な姿勢は、現地のキリスト教徒からすれば迷惑千万だっただろう。神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世やアユーブ朝スルタンといった教養ある統治者は、巧妙に全面的な衝突を避けたが、聖王ルイ9世やマメルーク朝スルタンは衝突を望み、結果として十字軍国家は消滅した。互いの正義を主張するのみでは紛争は避けられず、泥臭い調整が平和を生み出す。これは現代も同じだろう。2020/01/05
えりか
36
「聖地はキリスト教徒が血を流すことによって解放されなければならない」「神がそれを望んでおられる」第一次からまで第八次まで、理由や方法や結果はどうあれ戦ったものたちの熱き精神がかっこよかったし、ある面(血を流すことこそが正義という精神や保身や利権が目的となっていった面)ではどうしようもなさも感じる。旨味がある地で共存しながら経済活動に勤しむエコノミーアニマルたちの賢さには感心。個人的には聖堂騎士団が好きなので、フランス王家の策略で異端裁判にかけられるその最後がとても悲しい。2020/03/22
piro
35
神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ2世と第6次十字軍、フランス王ルイ9世と第7・8次十字軍、そしてアッコン陥落を描いた巻。ルイ9世の行動は余りにもお粗末としか言いようがないのに対し、フリードリッヒ2世が「破門」を気に病むことなく独断での交渉をもってイェルサレムを「奪還」してしまったことは痛快。それでも宗教戦争というものは何と虚しい事か。さすがに現代ではローマ法王も他の宗教との共存を掲げていますが、他の神を認めない一神教の危うさ、そして聖職者が国の統治に関与する危うさを感じます。期待以上に興味深い作品でした。2023/05/21