内容説明
待賢門院璋子、崇徳上皇、そして平清盛。志半ばの中で世を去った者たちへの思いを背負って歩く西行。北面の武士を捨て、出家をしてまで追い求めた「宿神」とはなんだったのか。彼の胸に去来するものは……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アルピニア
64
最終巻。西住が逝き、崇徳院も怨嗟を抱えて果てる。栄華を極めた清盛も逝き、平氏は滅亡する。皆を弔い自らも枯れかけた西行だが、覚文からあるものを見せられ、己の内の欲望に再び足掻く。西行にとって歌とは、宿神とは-その答えが自歌合の奉納だったのだろう。西行の傍で開いた高野の桜、最期の場面が美しく穏やかで哀しい。夢枕氏は、同じ時代に生きた西行、清盛、文覚、それぞれの欲望に対する向き合い方を描くことによって読者に理趣経の教えを突きつけたかったのかもしれない。「鳰照るや凪ぎたる朝に見わたせば漕ぎゆく跡の波だにもなし」→2019/10/31
眠る山猫屋
19
加速度的に物語は進められて行く。平家の衰滅が語られ、西行にとって失い難い人々が、去ってゆく。歴史をなぞるよう。そして反魂の術を西行が行うとき、それはやっぱりあの人なわけで・・・。桜舞い散る中の刹那の邂逅は、淡くて幻想的で切なくて、夢枕獏史上屈指の美しさだった。終幕も夢みているようで、儚く、心に残る幕引きだった。西行は向こうで再会できたのだろうなぁ。2016/01/13
カノコ
15
苛烈な愛の物語。滅びゆくものへの狂おしい程の衝動。私は今、慟哭している。…真面目に言えば、事実の羅列でしかない戦記部分は退屈であったとか、色々あるけれど。それを覆してしまうくらい、私は、言葉に出来ない激情を感じていた。浅ましく生きることは美しく、死にゆく者も美しい。命を肯定できる、大作だった。2015/06/12
NAO
14
西行は桜をよく詠んでいるが、その桜とは何なのか。作者は、それを描きたかったのだなあと分かった。大きく動く時代の中でたくさんの人が死に、桜が散り、だからこそそれを見届けなくてはならない者がいて。西行の宿命は、熱い思いを胸に持ったまま、見届け、歌として残すこと。この伝奇小説で、西行の新たな一面が見えてきた。2015/05/02
はかり
11
最終巻を読了。西行はやはり一人。栄枯盛衰、清盛も亡くなり、歌だけが残る。桜に身を寄せる西行。散り際を求めてさすらう。最後に天高く失った毬が現れたことは驚き。「あれ」はやはり居るのか。2016/07/15