内容説明
〈西のはて〉を舞台にした、ル=グウィンのファンタジーシリーズ、ついに完結!旅で出会った人々に助けられ、少年ガヴィアは自分のふたつの力を見つめ直してゆく――。ネビュラ賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
36
アルカ館(マンド)の主人夫妻は奴隷たちからファーザー、マザーと呼ばれ慕われているが、身分の差は歴然としており、主人と奴隷の婚姻はない。また主人一家の横暴は見逃されており、ファーザーたる一家の当主は、穏やかな長男より粗暴な次男トームに期待をかけている。そして学者肌の主人公ガヴィアは彼とその子分格であるホビーの標的としていじめられる。先生でさえも主人筋の子供の暴力を止められない。先生もまた主人に雇われている身だからだ。最終的に彼等が救済されたことは最初から読者に提示されている点が安心できる。2021/08/30
roughfractus02
7
権力に庇護されていれば幸福は持続するが、その範囲外に出れば権力は暴力に姿を変える。権力は他に行使されるパワーだ。言葉も他に行使されれば権力となり暴力にもなりうる。そこは支配と隷従の関係が成り立つ世界だ。未来を予言する能力(ギフト)を与えられた主人公はそんな世界から逃亡し、帰属すべき場所を求めてはそのつど裏切られる。が、未来の予言を他の誰かに行使するのではなく自らの内に向ける時、物語る行為はその本質にある「文字」の深みに主人公と読者を誘うかのようだ。主人公が辿り着く詩と学問の都市は、読者の内にあるのだから。2024/01/14
Ribes triste
7
西のはて年代記読了。ガヴィアが暴力に人生を狂わされながらも、暴力で解決せずに自分の幸福と平安を求めてさまよう様子は、胸をうちます。ハッピーエンドで良かったですが、でもやっぱり怖い話です。2015/12/06
shou
5
隷属の在り方を時に公然と、時に建前や因習に隠れて描き、帰る当てのない放浪がサトクリフのローマン・ブリテンを思わせる良質のファンタジー。2015/01/15
海
5
ガヴィアは放浪のはてに、ついに自分の故郷に戻るが、そこは彼にとって遠い場所だった。多くのものを失い行き着いた先で得たものが、これからの彼に幸せをもたらしてくれるよう祈らずにはいられない。2011/04/27